空の棺【降谷零】

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自らの死期を悟ったのはいつのことだっただろうか。

この組織に売り飛ばされた時だろうか、
それとも、売り飛ばされる前だろうか、

昔を思い出してはみるが、どちらとも違ったようだった。







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「……、ベルモット…仕事？」


「今のあなたに仕事を持ってくるような女に見えるのかしら」


「…ふふ、そうね。」


「……酷くうなされていたみたいだけど、大丈夫なんでしょうね？」


「ええ、大丈夫。異常はないわ。この通りよ。
さすがね、ここの医療班は。また腕を上げたみたい」







冷たく硬い台から身を起こす。
麻酔から目を覚ましたばかりというのはどうも上手く身体が動かない。

身体の怠さを感じながら、ディアブロは頭に触れた。
別に怪我をしたというわけでも、体調を崩したというわけでもない。







「今のあなたを雑に扱ったら首が飛ぶわね。物理的に」


「そうね。それもそうだわ」


「……１つ、聞いてもいいかしら。
あなた……あの日、バーボンと何をしていたの？」





ベルモットは検査台を指で撫でると、ディアブロの頬にその指を這わせた。
目尻から、顎の先まで、するりと。

妖艶なその姿にディアブロは顔色の一切を変えることなく、ベルモットの言葉にただ一言だけ。そっと、添えるかのように。






「 忘れたわ。」






ベルモットの碧色の瞳を見つめ、その視線を逸らすことなく。ただ平然と嘘を吐く。

嘘の一つや二つ、あなただって持ってるじゃない。その大小に違いはあれど、嘘に変わりはないはずよ。

そう、心の中で笑みを零した。



だって、私の目的を知ってしまえばあなたは

私の脳天を、この場で撃ち抜いてしまうでしょう？







「……興味のないことには無関心、変わらないわね。本当」


「彼が面白い話を持ちかけてくれなかったのが悪いわ。」






ああ、素足で歩くこの床は酷く冷たく、怖くてたまらない。

歩くたびに響く、ペタペタとした音も、金属の音も
その足から伝わる温度も、感触も、まとわりつくようなこの足首の重さも全部。






_________はやく、早く、切ってしまいたい。








ディアブロは立ち止まり床を見た。

何もない。それどころかゴミ一つ落ちていない。




ヒールの先から、この先にある扉までの数メートルの間に、何もない。



ペタペタと足を進める音も、金属の擦れる音も
温度も、感触も、重さも、なにも。








なにも、ない。

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