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8:「最悪よ」 ページ9

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俺たちは、3週間ぶりに再会した。



久しぶりにみたAの姿は前とあまり変わらない。
凛とした、綺麗な姿勢に佇まい。自己管理も徹底しているようだ。



自分にも他人にも厳しいその性格は周りから顰蹙(ひんしゅく)を買うことが多かったが、その中に優しさがあることを知る人は確かにいた。

それも変わっていないらしい。
時折耳にする噂が、そう伝えるのだ。








『お久しぶりです、睦月さん』


「お久しぶりです。」








この対応も同じだ。仕事とプライベートは完全に切り離す。その姿も俺が惹かれた理由の一つだったと思い出しては、また心が空っぽになる。

何かで埋めたい気持ちが、そこにあった。






「まさか、この仕事を受けられるとは思いませんでした。」


『……随分と、不思議なことをおっしゃるのね。』


「そうですか?」






ああ、今、少しだけ素が見えた。

そうだ、彼女は常に無表情に見えてよく変わるのだ。
色豊かなその表情たちは、見ていてとても飽きる気がしない。







「……怒ったか?」



『……怒ってるのはそっちでしょ、始』









この会議室に、俺とA以外誰もいないというのもあるのだろう。

話し続けていると、ふと空気が変わる瞬間がくる。
それは今までに何度も感じてきたものだ。




ああ、愛おしい。愛おしいからこそ、今、すぐ側にいることがこんなにも苦しい。









「…なあA、」



『話すことなんてなにもないから。』



「……ひとつもか」



『ひとつもよ』








お茶を見つめる虚ろな目
変わらない、というのは嘘だ。

こんな目を俺は見たことがない。
きっと、見せまいと隠してきたからだろう。









「俺は、お前と話したい。
それは叶わないことなのか?」



『……それは、』



「…悪い、困らせるつもりはなかったんだ。
ただ…そうだな、まだ俺はAのことが好きみたいだ。そう簡単に忘れることなんてできないらしい。」



『最悪よ……ほんと…最悪…』









机に肘をつき、額に手を当てるA。
ぽつりと溢れた言葉に首を傾げると、Aは力なく笑った。









________そういうところが、嫌いなのよ。









「………悪い」



『謝らないで。悪いのは私なんだから』









そう言った彼女は

「 愛しくてたまらない 」

とでもいうかのように、熱を帯びた表情をしていた。









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9:(愛したい、愛させて欲しい)→←7:「自滅だけはするなよ」



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おむ(プロフ) - snowさん» ありがとうございます!初の別れ話だったので私もハラハラしてましたが無事完結できただけでなくこんなにも丁寧に素敵な感想をいただかて私も胸がいっぱいです…。こちらこそ、本当にありがとうございました(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
おむ(プロフ) - ひこさん» ひこさんんん!わ〜!ありがとうございます!始さん推しの方に受け入れてもらえるか不安だったのでこんな風に感想がいただけてとても嬉しいです!(^^)安心しました…。はい!これからもよろしくお願いします(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
おむ(プロフ) - 彩華さん» ありがとうございます!1番と言っていただけてとても嬉しいです…!最後まで読んでくださり本当にありがとうございました!これからもよろしくお願いします!(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
おむ(プロフ) - リラ@低浮上さん» ありがとうございました〜!はい!ご期待に応えられるようこれからも頑張ります!(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - 完結おめでとうございます。別れ話で始まり、ハラハラしました。皆の愛情の深さ、それに彼女の愛の深さが素敵な話でした。途中、もどかしくて、始さんを密かに応援してました。もう、胸がいっぱいです。素敵な話をありがとう。 (2018年9月12日 21時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おむ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=mucho  
作成日時:2018年1月25日 14時

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