3:「次 行きましょうか」 ページ4
驚くほどに、目覚めが良かった。
目が覚めてすぐに向かった洗面所に設置された鏡に、自分の顔が映る。
生気のない顔色。癖のついた髪。それから 少し涙のあと。
決めたのは私なのにと 呆れるように笑った。
次に手を伸ばしたのは歯ブラシ。
白と黒の対照的な色が1つずつ。しかし、迷わず白を取る。
残された黒い歯ブラシがカラン、と音を立てて崩れる。支えになっていた白の歯ブラシがいなくなったからだろう。
ああ、これは逆だな。と私は歯ブラシを噛んだ。
「おはよう、A」
『おはようございます、マネージャー』
朝食を軽く済ませ、迎えの車に乗りこむ。
乗り込んだ車の中、聞こえてきたのは私の所属する事務所の後輩ユニット、Growthの曲だ。
Six Gravityでなかったことに、ホッとした。
.
『撮影からですよね』
「ああ。その後は取材が何件か入ってる。
一応昼に休憩を挟めるようにしたが……必要なかったか?」
『いえ、今日はあるとありがたいです』
スタジオの中に入ってしまえば、もう私情は関係ない。
求められるがままに、求められている私を演じる。必要なことはそれだけ。
だから、中身は空っぽで、楽だった。
「Aさん、ちょっといいかな」
スタッフさんが、手を招いた。
この人は昔からお世話になってる人だ。少しお節介だけど、根はいい人で、明るくて、周りを引っ張っていくような人。
なんでしょう、と首を傾げると 実はね、と小声で耳元に口を寄せられた。
内緒話のつもりなのだろうが、スタジオ内は少しばかり騒がしい。気にせずともこの会話を聞いてる人は少ないだろう。
「ここの隣ね、睦月始さんが撮影してるの!」
『……………はい?』
「睦月さんとAさん、仲良しじゃなかった……?あれ…?」
『会ったら話す程度です。
でも…そうですね、せっかく教えていただきましたし、時間があれば後で覗いてみます』
「そうなの?
あれ…仲良かったと思ってたんだけど……ってごめんなさい足止めしちゃって!それじゃあお疲れ様です」
『いえ、お疲れ様です。』
隣、と言われた方向の壁を見る。
この隣で 君が_____________
ああ、なんだか苦しい。
あんなにも好きだったのに、今ではこの好きが邪魔をしてるんだ。
.
『マネージャー、次 行きましょうか。』
「…ああ、そうだな」
140人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おむ(プロフ) - snowさん» ありがとうございます!初の別れ話だったので私もハラハラしてましたが無事完結できただけでなくこんなにも丁寧に素敵な感想をいただかて私も胸がいっぱいです…。こちらこそ、本当にありがとうございました(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
おむ(プロフ) - ひこさん» ひこさんんん!わ〜!ありがとうございます!始さん推しの方に受け入れてもらえるか不安だったのでこんな風に感想がいただけてとても嬉しいです!(^^)安心しました…。はい!これからもよろしくお願いします(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
おむ(プロフ) - 彩華さん» ありがとうございます!1番と言っていただけてとても嬉しいです…!最後まで読んでくださり本当にありがとうございました!これからもよろしくお願いします!(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
おむ(プロフ) - リラ@低浮上さん» ありがとうございました〜!はい!ご期待に応えられるようこれからも頑張ります!(^^) (2018年9月12日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - 完結おめでとうございます。別れ話で始まり、ハラハラしました。皆の愛情の深さ、それに彼女の愛の深さが素敵な話でした。途中、もどかしくて、始さんを密かに応援してました。もう、胸がいっぱいです。素敵な話をありがとう。 (2018年9月12日 21時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:おむ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=mucho
作成日時:2018年1月25日 14時