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お互いの熱を感じられそうなくらい
ちかくて、あつくて、とけてしまいそうで
『……葉月、』
「………」
何も言わない彼に抱きしめられたまま
私は彼の名前を呼ぶことしか、できなかった。
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突然だった。
突然、タオルで私の視界を覆ったかと思えば
彼は私を抱き寄せてきたのだ。
普段ならありえない行動に驚きはしたが、抵抗も、拒否もできなかった。
否、しようとすら、思えなかった。
そんな私に何を思ったのか、少し抱きしめる力を強めた葉月。
髪から雫が落ちてきて、ポタリ、ポタリと首や肩に垂れ落ちる。
首筋に当たる髪の毛がくすぐったくて顔を背けると、ふと、写真が目に入った。
家族写真だ。
それも、かなり前の。幼い葉月がお兄さんであろう人たちと並び、写っていた。
私の家とは真逆の家族構成に、少し興味が湧いた。
『お兄さん、いるんだ』
「……」
『私には弟がいるの。小学校5年生の、元気な子。サッカーが好きで、いつも友達と楽しそうに遊んで帰ってくるの。』
家族のことになると、自然と口が動いた。
頭の中に浮かぶ弟の笑顔を思い出しては、頬が緩む。
今あの子は何をしてるだろうか。
『今日みたいな雨の日は、サッカーができないって悲しむけど、よくゲームをしてるの。
友達を誘って大騒ぎ。お母さんも嬉しそうに見てた。』
徐々に、手が緩む。
腕をすり抜け 一歩、後ろに下がった。
見たことのない表情をした彼は、口元で小さく弧を描いた。
「好きなんだな」
『……ええ、
好きよ。』
彼に伝えているわけではないのに、彼を想った言葉を伝えてるようで
恥ずかしくて、こそばゆい。
離れた時に落ちたタオルを拾い上げると、彼は元のよく知る笑顔に戻っていた。
小降りになった雨に、彼を思わせる赤色の折りたたみ傘がくるりと回る。
『ありがとう。タオルも、コレも。
明日返すね。』
「念のために持っといてよ、それ。
また降られたら困るじゃん」
『…それじゃあ、お言葉に甘えて』
赤が似合うな、と笑う彼に
あなたほどじゃないけど、と少し皮肉を効かせた言葉を言いかけて、留めておいた。
『また明日』
「ああ、また明日」
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おむ(プロフ) - 陣さん» 読んでいただきありがとうございました!楽しんでいただけてとても嬉しいです^_^ (2019年4月27日 13時) (レス) id: 0478855421 (このIDを非表示/違反報告)
陣 - 最後まで最高でした!こういう素敵な作品が増えればいいのに。 (2019年4月21日 15時) (レス) id: 68fd1f4854 (このIDを非表示/違反報告)
おむ(プロフ) - 来栖陽香さん» お久しぶりです!いつもコメントありがとうございます!(^ ^)黒年中との関係性、気に入ってたのでそう言ってもらえると嬉しいです!神がかって…?!あ、ありがとうございます…!!?たくさん読んでくださり本当にありがとうございます!いつもコメント嬉しいです(^ ^) (2018年4月3日 16時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
来栖陽香 - オムラースさんの作品は全て神がかってます!全て読んだ私が保証します。 (2018年4月3日 11時) (レス) id: a805fdd95d (このIDを非表示/違反報告)
来栖陽香 - お久し振りです!いやー流石ですね!陽との関係性はもちろん、新や葵などとの主人公の関係好きすぎて。年中組好きなので嬉しい! (2018年4月3日 11時) (レス) id: a805fdd95d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おむらーす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=mucho
作成日時:2017年9月4日 14時