Art.24 ページ24
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病院に通い始めて、数日が過ぎた。
病室までの道のりも、その周りの自販機の場所も、ジュースの種類も、隣の病室の家族も覚えてしまうくらい、僕は病院に通い続けていた。
「あらおはよう」
「おはよう、おばあちゃん」
Aのお見舞いにくると必ず会うのがこのおばあちゃん。
いつもお菓子をくれる。
今日はアメだった。マスカット味と、もも味の飴。
おばあちゃんはぶどう味、って言ってたけど
黄緑色に輝くその飴はきっと、マスカットだろう。味もぶどうより甘かった。
「…………A、」
『…こんなとこ、通ってていいの?』
「もうすぐ、退院なんだよね」
『あの人は捕まったし、もう、大丈夫だから』
「………退院したら、また、会いたい…」
『何言ってるの、いま会ってるでしょ…?』
「………そうだね。
カーテン、越しにだけど」
そう、僕たちの前にはいつも一枚の布があった。
開かれたことのないそのカーテンの向こう側にはAがいて、そう大してないはずの距離を感じる。
ずっと向こうにいるみたいだった。
『………もう、来なくていいよ』
「……いや、って言ったら…怒る?」
『怒らないけど、でも、嬉しくない』
それなら怒ってくれた方がよかったと、焼かれてしまいそうなほど苦しい胸元を、ぎゅっと握った。
顔が見たい。
もっと近くで声を聞きたい。
タコだらけの、細くて、温かい手に触れたい。
__________でも、
「………僕ね、Aに会えて、世界が変わった」
__________Aが望むなら
「Aが、Aの絵が、僕を変えてくれたんだよ。」
__________今日で最後にしよう。
「ありがとう、僕に、たくさんの色を教えてくれて」
__________ありがとう、僕に、
人を愛することを教えてくれて__________
「 ありがとう 」
「 ばいばい 」
風に揺れたカーテンの向こうで
泣きながら微笑むAが、見えた気がした。
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おむらーす(プロフ) - てぃみ〜さん» ありがとうございます!可愛い涙くんが書けてよかったです!!私が楽しんで書いたものをそんなふうに褒めていただけて嬉しいです!ゲナウ頑張ります!少々お待ちください!お気遣いまでありがとうございます!! (2017年9月3日 11時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
てぃみ〜 - 完結おめでとうございます!終始涙くんが可愛くて…とても、とても素晴らしかったです!!言葉に出来ない…!作者様の書く全ての物語の展開が本当に大好きです!!ゲナウ楽しみにしていますね!!無理せず頑張って下さい!! (2017年9月3日 3時) (レス) id: f99a1ade31 (このIDを非表示/違反報告)
おむらーす(プロフ) - ちゅーるさん» ありがとうございます!!私のかく陽がかっこいいだなんてそんな…!もったいないお言葉…!ご期待にお応えできるよう頑張らせていただきますのでよろしくお願いします! (2017年9月2日 22時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
ちゅーる(プロフ) - 完結おめでとうございます!お疲れ様でした。涙君の思いが実って本当に良かったです!おむらーすさんの陽くんはかっこよくて大好きなので、次回作期待してます! (2017年9月2日 20時) (レス) id: 5e2b033c1c (このIDを非表示/違反報告)
おむらーす(プロフ) - 練爛々さん» ありがとうございます!はい!覚えております!続けて読んでくださりありがとうございます!本当に嬉しくて嬉しくて…!お気遣いまでありがとうございます!精一杯頑張らせていただきます!よろしくお願いします! (2017年9月2日 18時) (レス) id: dccc051f5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おむらーす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=mucho
作成日時:2017年7月8日 0時