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それが起きたのは突然だった。

その日はいつも通り学校に行って授業を受けて、友人とくだらない話で盛り上がって妹とゲームの話をして家に帰ってご飯を食べて寝た。
なにも変わったことはしていない。
しかし、その次の日。目が覚めると眼前には知らない天井が広がっていた、
なんて漫画に出てくるようなワンフレーズが頭の中で流れた。
驚いて体を起こそうとするも動かない。

ふわりと身体が浮遊する、同時に温もりを感じる。誰かに抱きしめられているようだ。
ふと上に影がさして、ぱちりと一つ瞬きをすると私の顔を覗き込む誰かがいた。

途端、泣き声が部屋中に響く。その声は私の口から出ているらしく、意思を持ったかのように勝手におぎゃあおぎゃあと泣き声をあげる。

「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
「あぁっ…!よかった、無事に生まれてきて…」
声の主はベッドに寝ていて、私を抱き上げているのはまた別の人だと想像がついた。

「嗚呼私の可愛い子…貴方の名前はA…、Aよ…」

そっと私の額にキスをしてにこりと微笑む誰かはまるで赤子に語りかけるような柔い、優しい声だった。

意味がわからなかった。私のことを優しく見つめる誰かも、思い通りに動かない身体も、見知らぬ町並みも全部。
全部が、私の知らないもので溢れかえっていた。



「見てあなた…!Aが…」
「おぉ…!!立てるようになったのかぁっ、すごいぞ〜!!」

数ヶ月後、私はやっと自分で立てるようになった。嬉しそうに顔を綻ばせた二人は私の両親だ。

所謂転生…漫画によくある、現実では起こるはずもない御伽話、のはず。信じたくたかったけど最初に鏡を見た時に確信した。これは私じゃない。
見た目も、声も、全部がどう考えても私とはかけ離れていたから。

妹がある乙女ゲームに熱中していた。
[このゲーム、お姉ちゃんにもおすすめ!!展開はまぁまあベタだけどキャラの性格とかビジュアルとか、すっごく良いんだよ!!ヒロインも可愛いけど私はこの悪役の子が好きなんだよね]

そう言って画面を指差した先には鏡に映った私と同じ見た目をしていた。
その時は酷く動揺して両親を困らせたものだ。信じたくなかった、でも信じざるを得なかった。
私は与川Aだと。
--------

今でもあの日のことは信じられない。こうなった原因も寝て起きたら知らない場所だったことも、赤子に戻っていたことも、もう家族や友達と会えないことも理解したくなかった。

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作者名: | 作成日時:2023年7月3日 21時

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