11.帰りたい ページ11
カリカリと、ペン先と紙が擦れる音をBGMに本を眺める。
パラパラとページをめくっては見るものの、内容は全く頭に入ってこない。
「フフッ、本読んでるん?飼い主の真似っこかなぁ」
ペンを止めて、糸目の彼が笑った。
ここは彼の執務室のような場所だろう。
彼が座る机と、私が座っている応接用と思しきソファとテーブル。
あたりには色々な本やら書類やらが収められていて、手を伸ばしたら「悪戯はあかんよ」と止められてしまった。
代わりに、何冊かの本を彼が見繕ってくれたため、ソファに座りそれらを眺めていた訳だが……全くもって読めない。
見た目には私の知っている本と変わらない。文字はおそらく横書き。そこまではわかるのだが、綴られている文字と思しきそれらは、全く意味のわからない記号にしか見えなかった。
英語とかロシア語とか、"読めない"文字とは違って、どこを切り取って文字とするのかもわからない。
きっと、この場所の言語は私の知っているものとは全く異なっている。言葉が伝わらない時点で薄々そんな気はしていたが、改めて確信した。
それと同時に、何故彼らの言うことが私に伝わるのかはむしろ謎に感じられた。
ここは異世界なのか。何故ここに来てしまったのか。戻る方法はあるのか。
元いた世界でそんな物語を読んだことがあるが、そう言ったものは大体うまく話が進んでいくものだった。
実はとてつもない力を授けられていたり、神や勇者と称えられたり。あるいは物語の世界に入って、登場人物の誰かに成り代わって物語を進行したり。
しかし、今の私は誰かに成り代わった様子はない。
そして特別な力を持った自覚もない。
この場所や出会う人たちに見覚えもない。
どう進むのが正解なのか、全く見当がつけられないでいた。
いつのまにか考え込んでしまっていたらしい。
ぽすん、と隣に糸目の彼が腰をおろした。
「お仕事終わっためう〜!癒して〜」
私の肩に手を回すと、グイッと自分の方に引き寄せた。
「はぁ〜ほんま可愛い。ニンゲンちゃんはどこから来たん?」
『わかりません』
頭を撫でられながら答えたそれは、私が1番知りたいことだ。
「きっと飼い主さんが探してるんやろうけどなぁ…お家に帰りたいよね」
『……はい』
でも、どうやって帰って良いのかわからない。
この世界に、私の帰る場所はあるのだろうか。
2353人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
好きな相手が好感度100になったので告白したらBADENDルートとか初見じゃ分かりませ...
[wrwrd]乙女ゲーの世界に転生しましたが、モブな人たちと青春しますPart3
もっと見る
「wrwrd」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ムチャ(プロフ) - 名無しさんさん» コメントありがとうございます。フィクションだから楽しめる設定ですよね…! (2022年1月31日 20時) (レス) id: 5c3af31097 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん - 少し怖い設定ですね…もし自分がこうなったらと考えると鳥肌が立ちます(褒めてます) (2022年1月26日 15時) (レス) id: 77d1f025e2 (このIDを非表示/違反報告)
ムチャ(プロフ) - カンナフューラー・スカーレットさん» コメントありがとうございます!今後の展開の参考にさせていただきます…!引き続き頑張りますのでよろしくお願いいたします〜! (2022年1月24日 20時) (レス) id: 33a1921985 (このIDを非表示/違反報告)
カンナフューラー・スカーレット(プロフ) - めっちゃこの作品好きです!後下がリクしてるので私もいいですかね?受け付けてなかったら無視してくれて構いません夢主がピアノ弾いてみんながそれを聴いてびっくりするとかどうでしょう!trigger弾いたりしたら面白いと思います!これからも投稿頑張ってください! (2022年1月23日 17時) (レス) id: ac012606e8 (このIDを非表示/違反報告)
ムチャ(プロフ) - ぽっぷこーんさん» コメントありがとうございます。上手く盛り込めるかわかりませんが、今後の参考にさせていただきます…!引き続き頑張ります! (2022年1月20日 23時) (レス) id: 5c3af31097 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ムチャ | 作成日時:2021年11月4日 21時