夢寐 Ⅳ (ページ10)

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昼休みでもない時間に
彼女のAから突然来た
“会いたい“のメッセージ

今日も早く帰れないことが分かっていた俺は
その時は特に考えもせず断りの連絡を入れた

いつも通り残って仕事をこなし始めたけど
最近休日もまともに会えてなくてすれ違うばかりの日々
そんな状態なのにわがまま一つ言わない彼女が
平日真っ只中の今日に“会いたい”と言ってきたことが
どうも引っかかっていた

思えば付き合いが長くなるにつれて
お互い我慢することが普通になっていたのかもしれないなと
仕事を早めに切り上げて彼女の元へと行くことにした

もうすぐ彼女の家の前といった所で
歩いている俺の横を通り過ぎたタクシーが
彼女の住むマンションの前でハザードランプ焚き始める

タクシーから降りてきたのはAで
すぐに声をかけようと思ったが
続いて若い男も一緒に降りてきて
発そうとした言葉を飲み込む

その場で様子を見ていると
おぼつかない足で歩くA
酒で酔っていることは明白で
一緒に降りてきた男は彼女を見守るように
後ろを歩いているからやましい関係ではないなと
安心して胸を撫で下ろす

そんな時自分の足にもつれて倒れそうになる
Aに気づいて咄嗟に彼女の元へと走って腕を掴んでいた

急に現れた俺を見て“湧”と名を呼びながら目に水分を溜め
俺の胸に飛び込んできた彼女を抱き止める
その姿を見て我慢させていたことに今更ながら気がつく

一緒に降りてきた男は空気を呼んだのか
いつの間にかいなくなっていて
彼女の家の前で2人きり

『Aごめんな。寂しい思いさせて』

うわ言のように俺の名前を呼び泣くAを
落ち着かせるように背中を撫でるけど
それ以外に今してやれることがなくて
胸がギュッと締め付けられるように苦しくなる

「わく、離れたくない。…ずっとそばにいて？」

彼女の願いを叶えるために俺にできること
それは俺自信も望んでて少し前から考えていた
こんなタイミングで言うのもどうかと思うけど
逆に今こそ絶好のタイミングなのかもしれない

『俺たち一緒に暮らそ？』

俺の言葉を聞き彼女が嬉しそうに頷いた

『すれ違う』

fin