夢寐 Ⅳ (ページ20)

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「皇輝くん帰ろ？」

ホームルームも終わり待っていた放課後
帰る支度が終わったAが俺の席までやってくる
Aの手にはそれらしき袋を持っていて気分が高揚した

並んで廊下を歩いてると途中俺の友達から
冷やかされたけどそんなのどうでもいい

昇降口で靴を履き替えて
再び並んで校門を出ると自然と彼女の手を取る
遠慮がちにギュッて握るAの仕草が堪らなく好きなんだよね

いつも通り通学路を歩きながら
今日あったこととか話してる
後は、俺らの弟はどっちもある意味個性豊かだから
大体は星輝と悠仁の話をしているけどね

道の途中Aが立ち止まるから
どうしたの？と声をかけると

「皇輝くん、公園寄らない？」

と恥ずかしそうに言ってくるから
もちろんと答えて通学路から少し外れた公園に足を進めた

夕暮れの公園だから誰もいなくて2人きり
冬だからこの時間でも薄暗くて
街灯の下にあるベンチに並んで座る

「これ、バレンタインのチョコ」

Aが手に持っていた袋を僕に渡してくる
ずっと楽しみにしてたから顔に出るよね

お礼を言って食べていい？と聞くと
ちょっと微妙そうな顔でいいよと言うA
どうしたんだろうと思いながら
袋から取り出すと見たことのある有名高級チョコレート

あれ？手作りじゃない？と首を傾げる
そんな俺を見て慌てて言葉を発するA

「あ、あのね。悠仁から聞いてると思うけど
　手作りであげたいなって思って練習したんだけど失敗しちゃって…」

“いちよう持ってきたんだけど“と
俯きながら出されたのは形が歪なチョコレート

僕はふっと顔を綻ばせる

『俺はこっちがいいな』

Aが作ったチョコレートを貰い
代わりに俺の手にある高級チョコレートをAの膝に置く
その後、彼女が一生懸命作ったチョコレートを1粒とり
口の中に入れると甘い味が広がった

『美味しい』

「うそだ！こんなぐちゃぐちゃなの…」

僕の言葉に目を真っ赤にさせて泣く彼女の
頬にそっと手を伸ばす

『見た目なんて関係ないよ
　Aが一生懸命作ってくれたことが一番嬉しいからね』

恋人になってからの
初のバレンタインデーは思い出のある日になった
どんなに形が悪くたって気持ちが大事だからね！

「手作り」

fin