夢寐 Ⅲ (ページ14)

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マンションの屋上に上がると誰もいない
住人がいつでも座れるようにと設置してある
木製の椅子にそれぞれ座ると空を見上げると
星空の中にピンク色に染まった大きな丸い月

しばらく2人でストロベリームーンを眺めていると

「ね、皇輝くん」

『ん？どうした？』

Aさんに名前を呼ばれ手を取られて、
ワインで酔っちゃったかな？と彼女の顔を見つめると
真剣な目で見つめ返されて酔っている訳じゃないと気付かされて
何か大事なことでも言われるんじゃないかと急に緊張感が込み上げてくる

『結婚しようか。私たち』

彼女から言われた“結婚しよう”の言葉が俺の頭の中でぐるぐる回る
“え？俺、プロポーズされた？“
“夢？夢だよね？！”
あまりの衝撃で現実なのか夢なのか混乱してきて
空いた方の手で自分の顔をつねるとちゃんと痛みが走る

「やだなぁ。現実だし」

俺の行動に笑ってるAさん
思い返してみると告白も同棲も何もかも
彼女からばっかりで自分からだったことなんて一度もない

今日だって長瀬に言われたのに
プロポーズさえも彼女からになってしまった

せめて返事くらいはと

『A！幸せにするから俺と結婚しよ！』

俺は屋上で彼女への愛を叫ぶ
そんな俺を見て嬉しそうにうなづくAさん

「やっと皇輝くんから気持ち聞けたなーって。
　生徒会室で寝てる私にキスしようとしたのに躊躇した時から変わらないよね」
　

『それはほんとにゴメン。てか、あれはAさんが目を開けるから…』

「皇輝くんからキスしてくれたら許してあげてもいいけど？」

俺は彼女を立たせるとそっと顔を近づけて
“A愛してるよ”と耳元で呟くと
ピンク色に月に照らされた俺らの影は一つに重なった

『屋上で愛を叫ぶ』

fin