夢寐 Ⅲ (ページ48)

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「A、待って！」

教室での様子を見ていた光成に
追いかけられて腕を掴まれる
今の表情を誰にも見られたくなくて
“離して”と掴まれた腕を振り離そうとしたけれど
男の子の力に叶うわけもなく掴まれたままの腕

「話聞くから、屋上いこ？」

優しく声で光成に言われ黙って頷くと
そのまま腕を引かれて屋上へ向かった

お昼に座っていたベンチに同じように座ると
アイロンの掛かった綺麗なハンカチを渡してくる光成
俯きながらハンカチを受け取りそっと目に当てる
柔軟剤のいい香りがしてきて少しだけホッとした

「よく我慢したね」

落ち着かせるように私の頭を撫でる
光成の優しさに再び涙が溢れてくる

「こんなに苦しいなら
　竜生のこと好きにならなければよかった」

思わず本音が口から出てくる
素直に思いを伝えられない自分が悪いのに
竜生に対する気持ちすら否定したくなって発した言葉

それに対して少し時間を置いて耳に届いた光成の声

「じゃあ、俺にする？」

光成の言葉に思わず顔を上げると
真剣な顔で見つめられている

「知らなかった？俺、Aのこと好きだったの」

続けて発せられた言葉に驚きが隠せない
“光成が私のこと好き”なんてこれまで全く考えたこともなかった。
なんでも話せる大切なクラスメイトで男友達。
その意識しかなくてどう返事したらいいかわからなかった。