ゆっくり休もうホトトギス ページ29
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西「デートの待ち合わせ中ですか？お姉さん」
「……ごめんなさい。ナンパは結構です」
西「あは！ノリがいいねえ」
今日は練習生に1日だけ与えられた、オーディション始まって以来初めての完全休暇日。
かなり久しぶりにスマホも返してもらって、右手にすっぽりとこの硬い物体が収まってるのが、なんだか変な感じ。
そうやって溜まっていたメッセージやSNSをつらつら眺めながら壁にもたれていると、私服もやっぱりオシャレで、でもなんかちょっとチャラい、西くんがからかってくる。
西「誰か待ってんの？あ、もしかして柾哉？」
「ううん。カノちゃん」
西「なーんだ。柾哉とデートしねえの？」
「なんでよ。別になんも誘われてないし、そもそもわたしは用事あるし」
西「用事？やっぱデート！？」
「違う。美容院」
西「美容院かよ〜柾哉とデートじゃねえのか〜」
いや、どんだけわたしをデートに行かせたいんだこの人は。
この限りなくシンプル、白のロンティに黒のパンツ、黒キャップの姿でデートになんか行くはずないだろうっていう乙女心がわからないのだろうか。それはそれでダメだと思うけど。
西「てかAめっちゃキャップ似合うじゃん。俺のこれ要る？てかあげるわもう」
「え、いらん」
西「おい〜その即答やめろよ〜。いいじゃん、ちょっと被ってみって」
「あ、……うわ、」
ぼすん、と、さっきまで西くんが被っていたオシャレなキャップがわたしの頭に被せられる。
その瞬間、彼特有のものなのか少しだけ、甘く香ばしい香水の匂いがふわんと鼻をくすぐっては、すぐ消えていった。
「……なにこれ。めっちゃでかいんやけど」
西「あはは！そりゃそーだろ俺の方が頭でかいんだから。ほら、後ろ向いてみ、調節してやるから」
「……お願いします」
西「はいはい。仕方ないですね〜」
「え、なんなん。別に自分でもできるし、」
西「いーよ。じっとしてろ」
「……、」
……なんか西くん、お兄ちゃんみたいだな。
わたしは一人っ子だからその感覚は分からないけど、兄がいたらこうやって甘やかしてほしかった人生だった。
と、西くんに背を向けて帽子の大きさを調節してもらっていると、ちょうどわたしの向いてる方向から、スマホを煽りながらたじくんが歩いてくる。
田「！……、」
わー、手なんかニコニコしながら振ってくれちゃって。というかマスクにキャップしてるだけで顔、ちょっと小さすぎない……？
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作者名：魚屋 | 作成日時：2021年2月16日 23時
