6 ページ31
静かになった廃ビルの最上階に三人の人間と一人の元人間がいた。
「その子、どういう子だったの?」
地面に座り込んだままの一人の少年は元人間だった女の子を抱えている。
『…。』
少年は答えなかった。ただ己の抱える元人間を愛おしそうに哀しそうにじっと見つめている。
もう開かれることのない瞼からは涙が伝っている。
しかし口元はうっすらと微笑んでいてさぞかし幸せな状況だったのだろう。
「虎杖。言わないと分からねえ。何があったんだ?」
――約束だよ、悠仁くん。
『それ、は…。』
.
〈大人になって、ずっと時間が経ったら悠仁くんとこうやってしおりを作ったことも忘れちゃうのかな。〉
《どうして?》
〈わかんないけど、いつか忘れちゃうのは嫌だなあって。私はずっと悠仁くんのこともこの思い出も綺麗なまま覚えていたいの。忘れることが、怖いんだ。〉
《うーん。…じゃあさ、2人だけの秘密にするってのはどう?しおりのことについて聞かれてもお互いのことについて聞かれても相手にわかるようなことは何も言わねーの。》
〈私と、悠仁くんだけの思い出ってこと?〉
《そ。そうしたら俺とAだけの誰のも邪魔されない綺麗な思い出のままでいられるじゃん?約束すれば忘れづらくなるし。》
〈…そうだね。私と悠仁くんだけのもの。そうしよう。約束だよ、悠仁くん。〉
.
その時絡めた小指の感触はまだ残ってる。今も触れたところが燃えるように熱い。
『‥悪い。言えない。でももう大丈夫だ。心配かけて悪かったな。』
「本当に平気なの?」
『うん。ちょっとしんどいけどいつまでもこうしていられないし。Aもこんなところ早く出たいだろうから。』
「…伊地知さんに連絡してくる。」
『おう、頼む。』
.
すっかり冷たくなった彼女の頰をひと撫でする。
さっきまで熱を帯びていた涙ももう氷のように冷めきっていた。
もう直ぐ彼女は連れて行かれる。二度と顔を見ることはなくなる。
そうなる、前に
『忘れない。忘れてあげないから。約束しっかり守るから。安心して、いいからな。
Aが不安に思ってたことは一生起きねえから。』
それを、今ここで約束しよう。
95人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Blue Stella | 作成日時:2020年11月1日 22時