文化祭。 ページ6
文化祭で、本気でメイド喫茶をやるクラスがどこにあるんだ。
企画の段階で必ずと言っていいほど挙げられるにもかかわらず、いつの間にか多数決の候補からすら消されているのがセオリーではないのか。
噂によると男子の誰かが ❝好きな子のメイド姿見たい❞ って変態じみたことを言い出して、そのまま男子全体が人数押し切りで多数決に勝ったんだとか。
慣れない衣装に身を包み、教室のドアを開けるなり声が掛かった。
「おっ、ええやんか!」
声がとにかく大きい。
彼のせいでクラスの大半の視線が私に集まり……、いくらかはすぐに元の場所に戻って、またいくらかはこちらに近づいてくる。
「いいじゃん!」
「似合ってる」
比較的仲の良い数人に囲まれ、照れくさい言葉を浴びる。
「Aちゃん、改めて見ると案外幼い顔しとるな」
周りに出来た小さな円の外側から、私に注目を浴びせた張本人である坂田がぬっと顔を出した。執事姿が本当によく似合ってる。
もてはやされるのはあまり得意でない。童顔って言われるのも良い気持ちにはならない。
だけど。
君が一瞬でもこっちを見てくれるなら……悪くないなぁ、なんて。
「坂田、ツインテール萌え?」
「はぁ!?違うわ!」
「ロリコンじゃん」
「いや、何でそうなるねんおかしいやろ!」
またいじられてる。可愛い。口先では怒ってるけど楽しそうだね。
坂田くんが笑ってると何だか私まで、心があったかくなる。
……あぁ、今なら。
スマホのカメラを起動し、いつの間にか輪の中心になってた彼のシャツの裾を引こうとした時。
「坂田くん!写真撮ろ〜っ?」
甲高い声が隣から聞こえた。
私がたった今ちょうど言おうとしたその台詞。
「おぉ、川上さん!撮ろ!!」
私の左手は空気を掴み、そのままだらりと落ちる。
「わ、私!撮ってあげようか??」
先程までの自身の行動を誤魔化すかのように気付けばそう口走ってた。
「えっ、いいの〜??」
「いいよいいよ、ほら貸して!」
半ば奪い取るように彼のスマホを受け取り、美男美女でお似合いな2人をカメラに収める。
うん、やっぱり綺麗な男の子の隣には綺麗な女の子が並ぶべきだよね。
私みたいな地味で目立たない人間は坂田くんの私物に触れられただけで……いや、やめておこう。
「坂田くんと川上さん、その格好で歩き回って来たら〜!宣伝にもなるし」
「え〜、俺めんどい」
「いいから、行ってこいってー!」
……うそ。やっぱり羨ましいな。
161人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆう(プロフ) - 嫉妬系がすごく好きです!頑張ってください! (2019年9月1日 3時) (レス) id: 550f8769db (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:サク | 作成日時:2019年8月29日 15時