ラテより甘い恋の味松/村/北/斗 (ページ8)

今日:13 hit、昨日:0 hit、合計:29,950 hit

. ページ8

－北斗side－

「ちょ、田中く…」
「珍しく他にもお客様いるんだからあんま1人の男とばっか話しちゃダメだろ、A」
「そうだよね、ごめん。じゃあ松村さん、ごゆっくりどうぞ」
「あ、はい。またきますね」
「早く行くぞ」

まるで俺なんかいないかのように、Aさんだけを見て話す「田中樹」と書いてある札をつけた男に強引に連れて行かれる彼女の背中を、俺は見守ることしか出来なかった。

彼女は彼のことを上の名前で呼んでいたけど、彼は彼女のことを下の名前で、しかも呼び捨てで呼んでいたのだからきっと仲が良いに違いない。
それもそうだ。俺はただの客と店員の関係で向こうはバイト仲間、そりゃ仲の良さも違うよなと自己嫌悪に陥る。

Aさんのことは初めてこの店に来た時から気になっていた。

もともと人付き合いがあまり得意ではないタイプの人間なので、大学の講義が終わると一人でカフェに向かって本を読むのが毎日の日課だった。
その日はたまたま行きつけのカフェが休みで、たまには違うところにでも行こう、と思ったのがきっかけで、スマホで適当に検索していると、｢コーヒーが絶品です！｣とレビューの書いてある俺の好きな見た目のお店がでできた。
特にこだわりはなかったのでそこに決めて行ってみることにした。

お洒落なアンティーク調の外見に惹かれて中に入ってみたはいいものの、お店には自分以外の客が誰もいなくて戸惑っていたところに、｢いらっしゃいませ～｣とかわいい女性の声がしたかと思うと、厨房から彼女が笑顔でひょこっと顔を出してきた。

低めの位置に1つ結びをして、毛先だけ少し巻いている落ち着いた雰囲気のAさんに、一目惚れしてしまったのだ。

何よりも笑顔の破壊力が凄かったのを今でも覚えている。あれで堕ちない男などこの世にいるのかと思ったぐらい。

それからはずっと彼女に会うためにこのお店に通い続けている。

迷惑客に絡まれているところを見た時は後先考えずに彼女をただ守りたいという思いで介入してしまったけど、迷惑ではなかったかな？と俺はAさんの行動や言葉1つに一喜一憂するほど、彼女に酔っている。

だってこんなに人を好きになったのはAさんが初めてだから。

もっとAさんのことが知りたいだなんて、独り占めしたいだなんて、叶わない願いなのだろうか。