苦い？ ページ6
それから私のシフトが入っている日には、必ず松村さんがお店にやってくる。
「いらっしゃいませ、ご注文は何に致しますか？」
「いつものラテください」
「かしこまりました、お席までお持ちいたしますね」
「ありがとうございます」
そして必ず、ラテを頼む。
うちのお店の看板メニューはコーヒー。
店長である高地さんがとある国のコーヒー豆に一目惚れして、わざわざそこの生産者さんに直談判して交渉し、取り寄せてもらっている。
私がここでバイトを始めようと思ったのも、友達に連れられてきたこの店で飲んだコーヒーがとても美味しかったからである。
ラテに入っているエスプレッソだってコーヒー豆からできているが、それとはまた違ったうま味のあるコーヒーは大人気メニューだ。
何を頼もうがお客さんの自由だと言われてしまってはそこまでだが、私は気になったので聞いてみることにした。
「お待たせしました、こちらに置いておきますね」
「ありがとうございます、いただきます」
「あの、ずっと気になってたんですけど」
「なんでしょう？」
今日もまた、読みかけていた本を閉じて私の目を見て話を聞こうとしてくれる彼にどきっとしてしまう。
「なんでいつもラテなんですか？」
「…それ聞いちゃいます？」
やばい、またやらかした？という私の不安は憶測だったらしく、その不安が顔に出てしまっていたのか松村さんは私の顔を見て微笑んだ。
「ごめんなさい挑戦的な言い方しちゃって笑別にコーヒーが嫌とかじゃないんです、ただ…。」
「はーいそこまで」
ストーップ、と体ごと私たちの間に割り込んできたのは田中くんだった。
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作者名：叶月 | 作成日時：2022年2月27日 15時
