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「ちっ、もういい帰るぞ」
「うす」
そう言って2人は荒々しくお店を出て行った。
お店に再び賑わいが戻ると同時に、視界が真っ暗になって爽やかなマリン系の匂いに包まれる。
「っ、よかった」
「北斗くん、怖かった…」
北斗くんが私を抱きしめる力を強くする。私は安心で涙が止まらなくなっていた。
「Aちゃん！？すごい声聞こえたけど大丈夫！？って、え！？」
自分を呼ぶ声で我に返り、北斗くんから体を離すと目の前で高地さんがあたふたしていて、それが面白くて思わず笑みが溢れる。
「高地さん、遅いです笑」
「俺も思った〜、店長失格だよ〜笑」
そんなことないですよ〜、といつものテンションに戻った私を確認して、じゃあ、と安心したように北斗くんはいつもの席に戻って行った。
厨房に戻ると、樹がタオルで頭を拭いていた。
「樹、大丈夫だった？ほんとごめんね、私のせいで…」
「先輩のせいなんかじゃないっすよ笑あいつらが全部悪いんで気にしないでください笑」
「でもエプロンとか染みになってるよ？洗濯しないと…」
「…じゃあ、エプロン外してください」
「え？うん」
そう言われて私は樹のエプロンを外そうと近づいた瞬間、グッと腕を引っ張られたかと思うと、おでこに柔らかい感触がした。
「えっ、じゅ…」
樹、と言い終わる前に先程みたいに視界が真っ暗になって、今度はコーヒーと甘いバニラの匂いの混ざった不思議な匂いに包まれた。
「ねえA先輩、俺女遊びやめたんです」
「そ、なの？どうして急に…？」
いろんなことが一気に起こりすぎて軽くパニックになる私を、さらに強く抱きしめてこう言った。
「ほんっと、そういう鈍感なところも大好きです」
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作者名：叶月 | 作成日時：2022年2月27日 15時
