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-樹side-
A先輩のことをいつから好きだっかなんて覚えてない。
バイトなんて経験したことがなくて、全てが初めてだった俺の横にいつもいてくれた。
俺ができない仕事も難なくこなして、でもどこか少し抜けている先輩に心を奪われてしまうのなんて時間の問題だなとすぐにわかった。
あの日。俺は店長に呼び出された。
「樹くんさ、Aちゃんのことぶっちゃけ好きなの？」
「…は？」
「いやぁ最近あの男性客とAちゃんがよくいるところ見るんだけどさ、この間まーた話してるよって樹くんに言いに行こうとしたら、2人のことすっごい寂しそうな顔で見てたからどうなのかな〜って思って」
驚きのあまり言葉が出なくなった。店長が俺の先輩に対する好意に勘付いているのもそうなのだが、それ以上に自分の顔に感情が出てしまっていたことに動揺が隠せない。
真面目な顔で聞いてくる高地さんに「んなわけないじゃないっすか〜笑」なんて言える訳なくて俺は本当のことを言う。
「好きですよ。ずっと前から」
「やっぱり〜！？それなら尚更よかった！」
「何がですか？」
「今度Aちゃんの好きな作家さんって言ったらわかるかな？その人のサイン会があって、そのチケット2枚分を知り合いからもらったのよ。んで別に俺は興味ないから、樹くんとAちゃんで行ってきたらどうかな〜ということよ」
俺と、先輩で。
その単語だけで心が浮ついてしまうのだから相当重症だ。でも、行けないことなんて初めからわかりきってる。
だって先輩は…A先輩が好きなのは、あいつだ。
そんなこと言える訳なくて、本音に嘘を織り混ぜて答えた。
「いや、遠慮しときます笑俺は自分のペースで先輩堕としたいんで笑」
「そうなの？樹くんらしいね笑でもせっかくだしもらってよ〜！」
「ええ、俺に拒否権ない感じですか？笑」
半強制的にチケットを俺に渡して、高地さんはどこかへ行ってしまった。
ありがた迷惑だなんで口が裂けても言えないから、その気持ちと一緒にチケットを鞄にしまい、厨房を出る。
ふと端の席の方を見ると、いつからか当たり前になってしまっていた、先輩とあいつが話してるところ。
いつもはそこまで気にしないのだが、さっき高地さんとあんな話をしたからだろう。
嫉妬でおかしくなりそうだった。
だから気づいたら、あんな行動をしてしまっていた。
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作者名：叶月 | 作成日時：2022年2月27日 15時
