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松村さんにまだ時間ありますかと誘われて入った喫茶店は、心なしかうちの喫茶店と少し雰囲気が似ている気がした。
「ご注文承ります」
「Aさん、何頼みますか？」
「あ、じゃあコーヒーで」
「じゃあコーヒー２つで」
かしこまりましたと言って店員さんが帰っていく。
いつもは私が店員で松村さんがお客さんだから、同じ立場にいるのがとても新鮮に感じられた。
「今日は誘ってくれてありがとうございました、すっごく楽しかったです！」
「俺も楽しかったです、あなたを誘って正解でした」
なんてくしゃっと笑うからずるい。その子犬みたいな笑顔にまたキュンとしてしまう自分がいる。
その後も他愛のない話をしていると、さっきの店員さんが注文したものと伝票をテーブルに置いていった。
松村さんは誰にでも優しいのだろう。いつも私にしてくれるみたいに、店員さんの目を見てお礼を言うところは素直に尊敬している。
美味しそうな香りのするコーヒーが2つ並んでいるのを見て、とある疑問が浮かんだ。
「松村さんってラテ以外も飲むんですね」
「飲みますよ、俺コーヒー大好き人間ですから」
ドヤっとする松村さんに尚更疑問が浮かぶ。
それはあの時、樹に遮られてできなかった質問。
「じゃあなんで…」
「…A先輩？」
「…え？」
聞き覚えのある声に再び遮られてしまった。
松村さんとはまた違った、綺麗な低音の声が聞こえる方を振り向くと、樹が少し戸惑いと寂しさが混ざったような顔をして立っていた。
彼が1人でいるところを見るのは初めてでとても驚いた。
だって、いつもは隣にいるはずの女の子がいないから。
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作者名：叶月 | 作成日時：2022年2月27日 15時
