近漆、『その手を、どうか』 ページ42
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曇天。くもりぞら。
まるで何かの予兆のように、空が黒く染まっていく。
でも、私には。
黒が私を見つめているように感じた。
からす。いつまでも、私を見守ってくれるのね。
「行こう」
善逸君が私の手を引いた。
小さく頷いて、硬く骨張った手を握り返す。
住み慣れた町から遠ざかって行く。
振り返らない。あの子との約束を守る為に。
今は唯、前へ。
「……善逸君。このお金、私が貯めてた分全部だから」
「俺のお金、全然使ってなかったんだね」
「使い道が食費以外殆ど無くて」
「この着物とかは?」
「………………大昔、君が私に恋してると自惚れてた時代に、何と無く買ってしまった一品です」
「そっか。使い道があって良かった」
「うん……」
自惚れてた時代な……君の心を掌握して思うがまま、とか考えてた黒歴史な。所謂クズ女時代。
結局、善逸君が一歩上手でしたけども。
とある商店で見掛けたコレに一目惚れして、でもお金なんて無かったから、善逸君からちょこちょこ貰ってたお金をこつこつ貯めて、そして買った。
初めて自分の意思で買った、自分だけの物。
あの男には、「行き付けの八百屋さんのお婆ちゃんに、どうしても貰って欲しいって言われたの」と嘘を吐いて。
今はこうして、私の大切にしている物の一つになった。
「お金、どうしようね」
「善逸君のものだよ」
「違うよ、2人のものだよ」
「………貯金しよう」
「そうだね。今はどっかに預けて、後々色んな費用に充てよう」
「何の……?」
「分かってる癖に」
______ ………… 、
ちょっと考えて、微かに笑った
「うん」
______今度コソ、幸セニナレヨ!!
「…………そうだね」
今度こそ、私は。
今迄触れる事の出来なかった幸せを、この手で掴む為に。
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葵羽〜best friend group〜(プロフ) - 善逸の誕生日ということで、「善逸君はぴば!」のお話を見にきました…何回読んでも面白い…凄く好きです…! (2020年9月3日 14時) (レス) id: bccf6ec4c9 (このIDを非表示/違反報告)
聖 - 面白いです!更新頑張ってください! (2019年9月17日 20時) (レス) id: 5aaa39b99e (このIDを非表示/違反報告)
もこ - とてもすき! (2019年9月17日 12時) (レス) id: fcbb1370f0 (このIDを非表示/違反報告)
まえむ - え、鴉かっけぇ…続きが気になりすぎます!!!更新頑張ってください!! (2019年9月17日 1時) (レス) id: 572cac2bfb (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 更新ありがとうございます!何だかハラハラする展開…!続きも気になります(o>ω<o) (2019年9月15日 5時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱんこ | 作成日時:2019年9月1日 11時