【男主】猫、時々、人間。【WT】 (ページ10)

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10、おねがいページ10

「じゃあ1個だけお願い聞いて？」

病院に行くのと引き換えに条件を出されたが、至って簡単なものだった。
名前を呼び捨てにし、敬語を外して欲しい、と。

「ねぇ～お願いお願い！！」

『それくらいなら、まぁ』

しかしいざ意識するとなんだか小っ恥ずかしくて口ごもってしまう。ぶるさんはこれまでに無いほどきらっきらした期待の眼差しでこちらを見ている。

『ぶ、ぶるーく……』

「やった！なぁに、A！」

うわぁ、嬉しそう。猫より犬っぽいな、なんて思ったが心にしまっておく。

『これで病院行ってくれるんで……だよね？』

「うん！いいよ」

ピコン、とスマホの通知が鳴る。

Smileいつ病院連れて行くの
Smile車、出してもいいけど

スマイルさんから淡々とメッセージが来ていた。文面は冷たいけど優しさが滲み出ていた。

A水曜午後休だから行こうかなと思ってました。
スマイルさんが良いならお言葉に甘えても……?
Smile別にいいけど。どうせ慣れてないだろうし一緒に行った方がいいでしょ

彼なりに気を使ってくれている……のか？こういう時はありがたくお言葉に甘えるに限る。

「ニャー？」

『おわっ、いつの間に』

猫の姿になっていたぶるさ……ぶるーくが肩に乗ってきた。首にふわふわな毛がかかって擽ったい。
宥めるように撫れば、ゴロゴロ喉を鳴らして気持ちよさそうに目を細めている。

『……っは、』

可愛さに負けてつい撫で回していたけど、人間だった。

「……みゃぅ…………」

『いてて、ちょ、噛まないで、ちょっと』

容赦なく指を噛んでくる。人間の尊厳は無いのだろうか。もしくは思考がだいぶ猫寄りなのか？
鼻周りを擽って人に戻す。

「ッくしゅ、うぅ～……なんで？」

『水曜日なんだけど、同僚が同行してくれるので絶ッ対くしゃみしないこと』

「難しい事言うね？頑張るけど」

『そうだ、どっちの姿が楽とかあるの？』

「んー、猫だと身軽で楽なんだけど頭がフワーってするし、でも人だと体力が少なくて、すぐ眠たくなっちゃう」

どちらも長所短所があるようだ。便利なんだか不便なんだか。

「Aはどっちの僕が好き？」

『別にどっちでも……』

「えどっちも好き！！！？？？」

なんて都合のいい耳をしているのだろう。終始彼のペースに飲まれながら、その日は眠りについた。