8、人見知り ページ8
『あ、あの……スマイル、さん』
「……なに？」
視線を一切交わさず、低い声でぶっきらぼうに返事をする。すでに心が折れそうだ。ちらりときんときの方を見るも口パクでガンバレ！とエールを伝えるだけ。
『犬、飼ってるって聞いて……その、俺もペット……？を飼い始めたから、アドバイスとか気をつける事とかあれば欲しくて』
「そもそも犬と猫は違うじゃん」
グサグサ。
正論で刺され、心が致命傷を負った。"友達の友達は友達"理論は通用しない。
『ですよね、ありがとうございました、ﾊｲ……』
「待って」
席に戻ろうとしたが呼び止められた。が依然沈黙が続いている。なんだこの時間は？……え？ハシビロコウ？
「その猫は、誰かから引き取ったやつ？」
『え、えっと、捨てられてて……拾いました』
「動物病院はもう行ったの」
『ま、まだです』
「これ、読み取って」
QRコードを提示されたので読み取ると、"友達追加"の画面。一体今の会話のどこに友達要素があったと？
あ、アイコン犬だ。
『可愛い』
「でしょ」
手描きの独特な犬のスタンプが送られてきた。寡黙で仕事が出来るエリートだと思っていたが、実は面白い人かもしれない。空気感はつかみにくいけど。
「これ、俺が行ってるとこ。まぁ連れて行ってもいいんじゃない」
ぽん、とリンクが送られてきた。動物病院のホームページらしい。行きつけなら信頼出来る。
『あ、ありがとうございます……！』
「別に。あと敬語じゃなくていい。そっちの方が楽だし」
これが俗に言うデレという奴かと感動した。一度も目は合わせてくれないけど。
「……色々調べてみるから。じゃ」
会話終了。表情を崩さずPC画面に向き直った。仲良く……なれた、のか？
「おかえりー。会話出来てたじゃん。2人とも似た者同士だから絶対仲良くなれるって思ってたんだよね」
『どういう事？まぁでもきんときのおかげかな。ありがとう』
きっかけがなかったら一生話さないまま、他人のままだっただろうし。これで顔見知り程度にはなれたのだろう。きんときには感謝しなくては。
「……！ほ、ほんと？Aの役に立てた？困ったことがあったら俺をもっと頼って、ね？」
頼もしい同僚達に恵まれて嬉しい限りだ。お言葉に甘えて頼ることにしよう。
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作者名：ぱすた | 作成日時：2023年8月16日 19時
