6、無常無情 ページ6
気がつけば日は暮れていて、雨風はさらに勢いを増して強くなっている。
『……』
ソファに座ってテレビを見ているぶるさんを横目に、夕食用の人参を刻む。
本当に、どうしたらいいのだろうか。
普通の猫なら保健所に引き渡すつもりでいたのに、これはあまりにイレギュラーすぎる。
警察……は迷子で取り合ってくれるだろうか。身分くらいは調べて貰えるのか？でもそもそも人間じゃないし、猫だし。身分もクソもないのでは？
つまり、手詰まり。
『いっ……！？うわ、最悪』
ぼんやりしていたせいでうっかり手に傷を作ってしまい、じわじわと痛みが襲ってくる。
「大丈夫？って血出てるじゃん！」
『これくらい放っておけばすぐ……』
「だめ！手当して！雑菌とか入ったらやばいし」
駆け寄ってきたぶるさんの気迫に負けて救急箱を取り出した。
「作るのシチューであってる？続きやっちゃうね」
『あ、うん……』
消毒やらをしている間に、慣れた手つきで残りの食材を処理していく。あっという間に夕飯は完成して、2人分、お皿に盛り付けられる。
『あ、ありがとう……ございます？』
「温かいうちに食べよ？僕お腹空いた〜！」
スプーンで掬って口へと運ぶ。……いつも作るやつより食べやすくて美味しいな。
程なくしてぶるさんが声を発した。
「あのね、公園でずっと考えてたの」
かしこまった真剣な雰囲気に思わず食べる手を止める。
「僕ね、記憶がないんだ。Aに拾われるより前の記憶。だから自分が何なのかも知らないし、行くあてもない。知り合いも居ないし、何も出来ないの」
「でもね、Aが僕のこと拾ったのはただの偶然だから、迷惑かけて困らせたくない」
「だから結局……僕一人で、生きていけるようになるまで、少しでいいから傍に、居させて、欲しくて…………！」
泣きそうな顔で、俯いたまま、ぽつりと呟いた。
秒針の音だけが部屋に響いて、長い沈黙が訪れる。
『……』
やがて目からぼたぼたと溢れる透明な雫。
……はぁ。
そんなの見たら、見捨てられるわけないだろ。
『……少し、だけなら』
「……ほ、ほんと……？」
『見捨てて野垂れ死にでもされたら、後味悪いし。もちろんタダじゃない。出来ることは全部やってもらう。それでいいなら』
「……！ありがとう！！」
また自ら面倒事に手を突っ込んでしまうのだ。全く、自分が愚かで嫌になる。
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作者名：ぱすた | 作成日時：2023年8月16日 19時
