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「さーむ!なんか永遠冬な気がする!」
またラーメンを食べた後にお店を出た瞬間、びゅんっと冷たい風が私たちにぶつかった。
もうすぐ春の芽吹を感じてもいい頃な気がするけど、彼の言う通りまだまだ冬は終わらないんじゃないかというほど寒い日が続いている。
「最近仕事はどうよ」
「…それ、会って最初に聞くことじゃない?」
「はは、いいじゃん別に」
ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、身体をすくめながら話し出すふっか。息は白くて、凍えそう。
「んー、別に。可もなく不可もなく」
「いいじゃん、平和で」
本当にそうだった。
仕事して、阿部ちゃんとお昼食べて…そんな日常。
「あー、でも」
阿部ちゃん。
彼の存在を思い出した時に、近況報告として最適だと思うことを思い出す。彼から言われたこと、後から咀嚼すると嬉しいことだと思って。
「最近同僚が嬉しいこと言ってくれて」
「えー、いいね。何言われたの」
「言葉選びが上手って。人のこと絶対嫌な気持ちにさせないし、思いやりと気遣いがすごいよねって」
それを使って口説く…は意味が分からないけど。
普通に人として大切なことだと思うから、それが出来てるなら嬉しいことだ。
「ふーん、その同僚分かってんね」
「え?」
ふっかは空を見上げて、自分から出た白い息を目線で追いかけた。
「俺はAのそういうとこ好きだからね。昔から」
"昔からそうだよな、Aって"
ハッとする。
そういえば、似たようなことを前に彼に言われた。
なぜか阿部ちゃんから言われて初めてだと思ってたけど、ふっかはいつか私にしっかりと言ってくれていたのだ。
忘れていたことに勝手に申し訳なくなる気持ちと、何かがじわじわと広がっていく感覚。
「……なにそれ」
「そのまんまだよ、Aのそういうとこが凄いと思うし好きだなって話」
でも私はそう言われたむず痒さと恥ずかしさで素直なことは言えなくて。可愛げのない反応しかできない。
「なんか気持ち悪い、やめて?」
「何だよ、褒めてんのに」
ほんと、褒めてくれてるのに。
「同僚から言われるのは嬉しいのに、俺は嫌なの?」
「…え、いや」
「俺の方がAの事知ってるはずなのに、悲しいなー」
空に向かってそう言ったふっか。
そして顔をこちらに向けて、目を細めるように優しく笑った。
また違う
あの時とはまた違う顔だけど
その瞳に、捕まりそうだった。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2024年3月29日 22時