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「……え、あ」
びっくりして阿部ちゃんを見ればニヤリと口角を上げている。フッと笑ってまたお弁当に目線を落とした彼はごはんをぱくりと食べた。
「なんてね〜、好きにならないでね俺のこと」
「……うわ、ずるいこの人。危ない男だ」
「口説いてみてって言ったのそっちじゃん」
してやったりな顔の阿部ちゃん。
こんなにしれっと可愛いなんて言われたらたまったもんじゃない、まだあのふっかの遠回しな文句の方がマシなような気がした。
……いや、まだ口説かれたと決まったわけじゃないんだけど。
「阿部ちゃんは強気にいくタイプ…」
「やめてよ、知った気にならないで。普段こんなこと言えるわけないじゃん」
「言った方いいよ、落ちるよ絶対」
「落ちてないじゃん」
正直ドキッとはしたけど驚きとかも含めたそれで。確かに阿部ちゃんのことはきっと何があっても信頼する同期から揺るがないと思う。
「……でも、阿部ちゃんとはずっと仲良しな同期でいたいから。その気持ちが強いから好きにならないんだと思うよ」
好きにならない、それはマイナスな意味では無い。
「…Aちゃんはそうやって口説けばいいよ」
「へ」
「言葉選びが上手いんだよ、いつも。相手を嫌な気持ちにさせたりとか絶対しない。思いやりがすごいし、読み取る能力もすごいんだと思う」
「急に…どうしたの」
「嬉しいよ、ありがとね。だから意中の相手にもその思いやりと気遣いで好きになってもらいなよってこと」
いつもの阿部ちゃんだった、穏やかで優しい雰囲気の男の子。その分、さっきの口説きモードの変わりようを思い返すとびっくりなのだけど。
「……うん、意中の相手が今いないからどうしようもないんだけど」
「部長とかどう？」
「一番無いんだけど。てか既婚者、おじさん」
むしろ阿部ちゃんのこと好きになれれば一番いい気もするんだけど。やっぱりそうはならない自分に、またなんでだろうなぁと疑問の気持ちと。
「ふふ、口説かれたらどうする？」
「不倫する気満々じゃん、ドン引きだよね」
「あはは」
なぜかまた思い浮かんだあの時の彼の表情に、何だか変なソワソワ感と悔しさを感じたのは気づかないフリをした。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2024年3月29日 22時
