口説き文句 ページ21
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……ちゃーん…Aちゃん？
はっ
「…あ、なに？」
「めちゃくちゃぼーっとしてたね、どしたの？」
ランチトートと水筒。
お昼ご飯セットを持った同僚が向かいに座る。
すっかりお弁当男子になった阿部ちゃんはそれを広げながら私に問う。
「いや、別に。ほんとにぼーっとしてただけ」
「疲れてる？午前中なかなかハードだったもんね」
「まぁ」
確かに午前中は直前になってスケジュールの変更があったりある資料の締め切りがあったりでバタバタしていた。
その分こうやってぼーっとする時間もなくて何も考えないで済んだのはありがたかったけど。
「その分午後はのんびりできそうだし」
「俺も定時退社確定な気がする。ちょっと休憩多めに取ってやろうかなぁ」
いただきまーすとご機嫌に手を合わせた阿部ちゃん。
彼の状況は詳しく分からないけれど、そのスケジュール変更があったおかげで午後に余裕ができたのは彼も同じらしい。
「阿部ちゃんさ」
「ん？」
「女の人口説く時ってどうしてる？」
そんな彼は私の突然の問いに箸で摘んでいた卵焼きを口に持っていこうとしてやめた。
「え…口説く？」
「男の人はどうやって口説いてるのかなぁって」
「…なんでそんなこと聞くの」
一瞬戸惑ったらしい彼は改めてゆっくりと卵焼きを口に入れた。どんどん綺麗になっている形、下手したら私より上手い気がする。
「いや…特に理由はないけど」
「無いのにそんなこと聞く？」
「じゃあ阿部ちゃんの口説き方が気になった」
「気になるわけないでしょそんなの」
阿部ちゃんにも気づかれているようだけど当たり前にそんなの言い訳である。
まぁ、阿部ちゃんが女の人を口説いてる様子は見てみたいけど。
「口説く阿部ちゃんとかみんな見たくない？」
「見たくないでしょ、バカなの？」
呆れられちゃった。
「なに、どしたの？」
呆れながらも話を聞こうとしてくれる姿勢はこうやってたまの毒舌を全てカバーするほどに優しい阿部ちゃんの性質なんだと思う。
「いやー、別に」
「誰かに口説かれでもしたの？」
そして言うまでもなく鋭い。
いや、これに関しては質問で察されるのかもしれない。
「…そんなんじゃないよ、私のこと口説く人なんていないし」
ただ口説かれたかどうかは正直分かっていないのだけど。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2024年3月29日 22時
