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「……急に褒めるじゃん。どうしたの、酔ってる?」
「ばか、まだ一口しか飲んでねぇよ」
そんな可愛げのない返事になってしまうのも無理はない。
近しい友達ほどこんなに真面目に褒められると動揺してしまうのは私だけじゃないはずだ。
「素直に褒めてるだけなのに、モテないよーそんなんじゃ」
そう、何だか聞き覚えのある口調で言ったふっかはまた一口お酒を流し込む。
「Aのおかげで仲良くやれてるってさ。俺わい」
そんなノリツッコミをしながらも、ふっかの表情はどこかいつもより柔らかい。そんな表情をしながら見ている先が自分であることが何だかむず痒くてソワソワしてしまう。
「……凛とさっくんが応援したくなるような人柄だからね。結局そんな2人がすごいんだよ」
謙遜する事でそのソワソワを無くそうとする。
グッとグラスを傾けると首に伝わる冷たさがやけに強い気がした。
「2人見てるとさ、いい恋してるんだなぁって微笑ましくなるんだよ。凛が不安になったのだってさっくんのことが心から好きだからでしょ?」
自分の感情を、凛とさっくんへの微笑ましさに必死にすり替えようとする。遠くを見つめるふりして私は目線を外に逃す。
「それこそ人間らしくてさ、可愛らしくて。この間言ってたじゃん、ふっか」
また、お酒を流す。
「その人間らしさは今の自分には無いからね。羨ましいとはちょっと違うけど…それがなくなって欲しくないなぁと思うと応援したくなるよね」
しみじみ。
心の中でわざとらしく呟いて気持ちを落ち着かせた。
「羨ましくないの?」
そんな私に問いかける彼。
「うーん、好きな人みたいなのがいれば羨ましいのかもしれないけど…お察しの通り、いないからね」
「ふーん、そ」
私の返しに特にリアクションはせずにグラスを傾けるふっか。ちょうど揚げ出し豆腐とだし巻きが運ばれてきて空気をリセットするチャンスだと思った私は店員さんがいなくなったタイミングで話を切り出す。
「そういえばさ、連絡してみた?」
「ん?」
「ほら、前好きだった人」
ふっかはその問いに「んー」と曖昧な返事をした。だし巻きと揚げ出し豆腐をきっちり隣に並べて、そしてまたグラスに手をかける。
「なに」
「まぁ、うん。したっちゃした」
カランとその中の氷が鳴る。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2024年3月29日 22時