思い出と記憶 ページ15
・
いつものように膝に、そして前足を胸元に伸ばして顔を近づけてきたツナに思わず顔を埋めた。
あぁ、今日のトップス黒だった。毛だらけだなこりゃ。
「お、吸ってんね」
佐久間さんの声に顔を上げるとにゃおんと私を見つめて鳴いたツナ。大丈夫？そう聞かれている気がした。
「……猫ちゃんって凄いですね」
「んにゃ？」
「きっと人間の事凄く見てるんでしょうし、感情を読み取るのもうまいんだと思います」
またすーっと吸い込んで手を離す。膝の上に前足を落としたツナの衝撃で“シャンっ”と何かが床に落ちる音がした。
「落ちたよ」
それは今膝の上で伏せて体勢を落ち着けたツナとそっくりなキーホルダーが着いてる鍵だ。それを拾った佐久間さんは微笑んで私に手渡す。
「……佐久間さん、この間私が何で編集者になったか聞いてくれたじゃないですか」
年季が入った猫のキーホルダー。
その猫と目が合った時、本当に何気なくてなんでもない景色が一瞬のうちに目の前を過っていった。
亮平と駅に向かう朝、ギリギリで教室に入ってくる辰哉、康二くんと3人で話している光景。亮平の家で勉強会、ゲーム特訓。
少し前を歩くランドセルが２つ
肩掛けの小さなバッグをかけた背中が２つ
振り返り、手を伸ばして
“A”って、私を呼ぶ2人。
「うん、素敵な話だなって思ったよ」
「あれ、もっと根本的な理由があるのを最近思い出したんです」
キーホルダーからツナ、ツナから佐久間さんに視線を動かす。佐久間さんは物凄く優しい顔をしていた。それは何故か、そんなの分からないけれど。
「…前言った通り私学生時代ってそんなにうまく過ごせなかったというか、いい思い出があんまりなくて。だからか記憶も曖昧なんですよね、楽しいことが無かったからなのか悪い思い出を勝手に脳が消してくれたからなのか……」
そーっとシャチも寄ってきた。寄り添うようにくっついて腰を下ろす。
「…でも、思い出したんです。そんな私を知ってか知らずか…その中でも必ず私を肯定してくれる人がいた。何気ない日常を一緒に過ごしてくれる人がいました。その人が…背中を押してくれたんですよね、夢の」
悪い思い出と一緒にそんな忘れるべきじゃないことまで私の脳は消してしまったのだろうか。今までなかった過去の思い出を脳裏に浮かべながら文字に起こしていく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1851人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
takkimakki(プロフ) - ぽぷらさんの大ファンで、こちらのお話もすぐに読み始めたかったのですが、色々あって精神的に落ち着かず、せっかくの大好きな作者さんのお話だから、気持ちに余裕が出来たら読ませていただこう、、と思っていて。こんな時期になってしまいました。お話、最高でした！ (3月4日 14時) (
レス) @page31 id: ff744b84c3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - ねもさん» こちらこそお読みいただきありがとうございました！締め方納得していただけてホッとしています（笑）ねもさんもお気をつけて、ありがとうございました☺︎ (10月17日 21時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
ねも(プロフ) - お疲れ様でした！毎回ドキドキキュンキュンしながら、更新楽しみにして読ませて頂いていました。ラストの締め方も天才…って感動しました。最高です！！いつも素敵な作品をありがとうございます。お身体にはどうぞお気を付けて、これからも応援しております。 (10月15日 10時) (レス) id: 04621d2dbc (このIDを非表示/違反報告)
白雪姫(プロフ) - ぽぷらさん» お忙しい中返信ありがとうございます😊毎日キュンキュンと幸せな気持ちで興奮しながら姉と黄色い声をあげていました笑👏また新作を出す予定があれば楽しみにしています😍 (10月10日 23時) (レス) id: 0bbb4fca30 (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - ぽぽぽさん» こちらこそお付き合い頂きありがとうございました！ニヤけちゃいましたか？（笑）楽しんで頂けたみたいでよかったです！タイトル実は考える時結構悩んだので汲み取って貰えたのはとても嬉しいです！素敵なお言葉ありがとうございました☺︎ (10月10日 22時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽぷら
| 作成日時：2023年10月1日 21時
