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「……そういう事か」
そんな呟きが聞こえて思わず顔を上げた。
目の前の佐久間さんはゆっくりとまた背もたれに身体を沈ませ、難しい顔をしている。
「え…？」
その言葉の意味は分からない。
「…まず、Aさん辛かったでしょ…言ってくれてほんとよかった」
すぐにまた体を起こした佐久間さんは私を見つめて眉を下げる。そんな雰囲気を察してなのか、ツナとシャチがさらに私の膝元にぎゅと体を寄せた。
「何かおかしいなって思ってたの。この前電話したでしょ？」
「おかしい？」
「その時は濁しちゃったんだけど…御陰さんから連絡来たって言ったじゃん？あれね、正直Aさんを心配するというより否定するようなことばっかだったの」
そばに置いていた携帯を手に取ってある画面を見せてきた佐久間さん。それは御陰さんとのトークルームで20分ほどの電話の後に何回かのやり取りが。
「最初の電話は最近どう？とか今の連載調子いいねとか、そんなことから始まったんだけど…俺がAさんの名前を出した途端に何か声のトーンが変わったというか……」
電話の後のやりとりは“いつでも佐久間くんの担当に戻るからね”とか、“また一緒に仕事したいよ”なんて言葉が。
「それで、あの子は仕事が遅いからとか前にこんなミスしてたとか……俺はそんなこと思ってないし、ミスだなんて誰にでもあるだろうからそんなネチネチいう事でもないだろって感じで…ちょっと不快だったんだよね」
私の中のイメージは仕事をバリバリこなしつつも後輩の面倒は積極的に見てくれるとてもいい上司だった。けど、今の話を聞いてそんなイメージを崩さないわけがない。
「だからさぁ、なんかあったんじゃないかと思って。確証はつけないけど…噂を流したの御陰さんなんじゃないかな……」
ショック。失望。そんな気持ち。
「…そんな」
「御陰さんが担当だった時ずっと不思議だったことがあってさ、ツナとシャチが全く寄り付かないの」
膝元の２匹を見る。
くりくりの瞳が私を見上げていた。
「その時はいい編集者さんだなと思ってたし、問題なく仕事もできてたんだけど…でもこの子たちは分かってたのかもね。Aさんみたいに、本当にいい人じゃないってこと」
ニャオン。
膝元で何かを訴えかけるようにツナが鳴いた。
心なしか、さっきの佐久間さんみたいに眉を下げるようなそんな表情をしている気がした。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2023年9月2日 23時
