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そんなやりとりをして、一瞬その様子を客観的に観ていたもう一人の自分が“カップルじゃん”って呟いて。そうだよね、傍から見ればそもそもこの歳の男女が2人でお祭りに来ている時点でカップルにしか見えないだろう。
恥ずかしさと、変なドキドキと。
「はい、拭きな」
「え、用意周到…」
そんな私に今度は綿あめじゃなくてウエットティッシュを差し出してきた亮平。
「何かしら食べるだろうなって。よく母さん達がこれでべったべたになった俺たちの口拭いてくれてたでしょ」
全然考えてなかったや。
「お気遣いありがとうございます」
「ふは、何それ」
ありがたく頂戴して。でも思いっきり拭くとリップは塗り直せばいいにしても周りのファンデとかが落ちちゃいそうで。豪快に拭かれていたあの頃とは違ってそっと口元を撫でる。
何だかそれだけの事にも大人になった自分たちを感じて。
「……亮平」
「ん」
「しょっぱいの、食べよ」
「うん、身体が欲してるわ」
また変に今の状況を客観視してしまった私はハンディファンじゃ涼めないほどに体温が上がった気がした。
「あ、花火もうすぐだよね」
「あー、そうかも」
土手の方に人が集まり始めていた。それを見た亮平はキョロキョロと周りを見渡し始めて、しばらくしてある場所に視線を止めた。
「こっち」
どこを見ているんだと疑問に思っていれば腕を引かれた。控えめに私の手首を掴むその手は熱くて、その力加減と何となく感じる雰囲気に…
「りょうへー?」
「んー」
「どこいくのー」
「いいからー」
今までと違うというか。
動揺?緊張?そんなものを感じたのだった。
「あ、いいね。ここ」
「ん?」
「よく見えそうじゃん」
分かりやすく人が集まる場所のちょっと外れたところ。穴場なのか何なのか待機している人も少なめで落ち着いた雰囲気の場所。でも毎年花火が上がる方向はなんの遮りもなく綺麗に見えている。
「待ってて。焼きそばとフランクフルトと…あとなんか食べたいのある?」
「え、一緒に行くよ」
「ここ取られちゃうからさ。落ち着いて見たいでしょ?なんか飲み物も適当に買ってくるね、欲しいの思いついたらLINEして?」
私をその場に座らせて駆け足で屋台の方に向かって行った亮平。
その時彼は何を思ったのか、はにかむような笑顔を見せてから去っていったのだった。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年9月2日 23時