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もちろん佐久間さんにもちょっとした手土産を渡して、美味しそうだからとそのまま食べ始めてくれた。何ならそのうちの一つを私の前に置いてくれる。
ツナとシャチは主人がいるにも関わらずずっと私にくっついていて。撫でれば撫でるほど気持ちよさそうな顔をするからこっちもかなり癒される。
「警戒心ゼロですね」
「Aさんだもん、そんなもんとっくにないよ」
「嬉しいです」
「何ならインターホンに反応してずっとドアの前にいたんだよ。Aさん来た!って分かったのかもね」
うちの子きゃわ〜!って上機嫌にお菓子を食べる佐久間さん。そんな彼にこれから嫌な話をしてしまうのが心苦しいと思ったけど
“助けてって言ってもいいと思うよ?”
助けてくれるとしたら、この人なのかもしれないと思った。私を信頼してくれている人。
「あの、佐久間さん。打ち合わせの前にお伝えしなければいけないことがありまして」
私がそう切り出すと何かを察したのかソファにもたれていた背中を起こした佐久間さん。でも表情はいつも通りで丸くてきゅるんとした瞳で「ん?」と問いかける。
「……今、社内で私と佐久間さんの関係についてありもしない噂が広まっています」
ただ、その言葉を聞いた瞬間に笑顔は消えて。
「こんなことをお伝えするの、本当に申し訳ないんですけど…簡単に言えば“身体の関係を持っている”と言われているみたいです。何故そんな噂が流れているのか、誰が流したのかは分かっていません。ですが実際に私にも耳に入ってきています」
眉間にしわを寄せてゆっくりと腕を組む。
いつもの明るい彼の雰囲気はすっかりなくなった。
「今はまだ社内だけでの話です。でも…今後それが外に洩れたり、うちの社員が外部の誰かに話してしまうと佐久間さんがバッシングを受ける恐れも十分にあります。
どうにかしてその噂が全くの嘘だと言う事を証明して、そのような事が起きないように対応するつもりですが…もしかしたら少し危険な状況になるかもしれません。
あと…佐久間さん自身に証言を頂く可能性もあります。ご迷惑をお掛けしますが、その時はご協力お願いします」
深く深く、頭を下げる。
もちろん最低限のマナーは守っているし漫画家と編集者という関係での接し方を崩すつもりは無いけれど、最初よりはだいぶ砕けた会話が出来るようになっている。
こんなにも固く、彼に接したのは久しぶりだった。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年9月2日 23時