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だからそんなこともう言わないでね。
そう、にこやかなまま呟いてまた箸を持った亮平。
「……ごめん」
「分かればよし」
ずるいな。優しいな。
いつしか彼が言った
"この人と一緒にいる時は自分を好きになれるなって、Aがそう思えるような存在になるよ"
という言葉。それをまさに体現している。
私だから、と肯定し。自分に結びつけて否定することを許さない。そのずる賢い優しさは亮平らしさが溢れている。
「で、お祭り行ける?」
その優しさは多分、誰にでも向けるものではないんだろう。
「…なら辰哉誘わない?またお前らだけでーって言われるだろうし」
向けるべき範囲が彼の中でどれくらい大きいかは分からない。けど、なんとなく私は中心に近いところにいる気もする。
「えー、2人がいい」
怖いと思ってしまうのは。
亮平のさっきの言葉を、まだ自分が受け入れられてないからなんだろう。
詩香みたいに、強くない。
「辰哉には言わなきゃいいよ」
「…なんで」
「俺が2人で行きたいから。それじゃダメ?」
"演じる"ことさえ、まだできてない。
「…はい」
「くれるの?」
「うん、これ美味しいから」
自分のお皿の上のものを差し出すことで誤魔化した私は演じる勇気もまだ出せないのだと気づいてしまった。
亮平がそれを口に運び、にっこりと笑って美味しいねって。嬉しそうな顔に"ごめんね"と思ってしまう。
「A」
流れを誤魔化して料理を口に運ぶ。
そんな私の名前を呼んだ亮平。
「夏帆ちゃんが言ってたんだけどね」
「…なっちゃん?」
「うん、この間会ったんでしょ?康二とゲームしてて少し話したんだけど」
話題を逸らしてくれた。
ほっとして、顔を上げた。
「やっぱ可愛い子だねって」
「え」
「大人になって綺麗にもなってるし、でもあの頃の可愛さも残ってる。私の理想だな〜なんて言ってたよ?」
あまりのベタ褒め具合だ。恥ずかしくて、そして何だか申し訳なくなって上げた顔をまた下げる。
「…やめてよ」
「だよね、分かるって言ってきた。Aって可愛いよなぁって」
「は」
下げたのにまた上げてしまう。
だって、そんなことはっきり言われてびっくりしないわけがなくて。
彼は悪戯に笑っている。
「否定したら怒るからね?」
「え」
「夏帆ちゃんと、あと俺のこと!どっちも否定してることになるんだから」
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年9月2日 23時