ずるい優しさ ページ35
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「亮平」
見慣れた後ろ姿に声をかければ振り向いて手を振る彼。風でサラサラとブラウンの髪の毛が揺れた。
「ごめん、待ったでしょ？」
「ううん、急に降ったしねぇ。傘持ってきた？」
「それがさぁ…」
「あは、その言い出しは持ってきてないね。ほら入りな？」
電車に乗った途端に降り出した雨。少しバタついて天気予報を見ずに、家を出るときは晴れていたからと雨具を持ってくることをしなかった私。
傘を刺した亮平は手招きをする。そーっと彼の持つ中に入れば透明な傘に雨粒が見えて少しの日の光でキラキラして見えた。
急な雨って、天気雨なことが多いよね。
「狐の嫁入りだねぇ」
「え？」
「天気雨のことそう言うの。聞いたことない？」
「あー…まぁ、その言葉自体は。なんでそう言うの？」
「諸説あるらしいけど、晴れてるのに雨が降ってるっていう嘘みたいな状態を何かに化かされているような感覚を感じてそう呼びはじめたとかー、シンプルに天気雨の日は狐が嫁入りをしてるとかね？」
「へぇ、じゃあ今日はどこかの狐さんが嫁入りしてるんだ」
「かもね。どこかの狐さんの恋が実ったのかも」
そんな、割と強めな雨に打たれてるとは思えないほどの平和で少しファンタジーな話をしながら向かう先はまたもや本屋だった。
一度断った誘い。
でも何だか悪い事をしてる気がしたし、自分の勝手な気持ちでせっかくの誘いを断るのは申し訳なくて。
それと、少しの気持ちの変化があったから。
「あー、ごめん。肩濡れてる」
「そんな気にしないで」
本屋さんについて傘を閉じた亮平の肩が少し濡れている。私は全く濡れてなくて、彼の配慮にまた少し怖いと思ってしまうけれど、そんな気持ちをグッと抑えた。
亮平が行きたいと言ったお店に行く前に、また本を買いたいと寄り道をした本屋。相変わらず私の必要性は分からないけれど彼はそんな事も気にせず小説のエリアへ。
「買うもの決まってるの？」
「ひとつはね、この間の続き。あとは何かいいのないかなーって」
この前みたいに漫画エリアに行く事はなく、彼について行って小説が並べられている棚をなんとなく見つめていた。
この仕事についてからもっぱら漫画しか目に入らなかったけど、あの頃のように久々に活字に触れるのもいいかもしれないなと気になるのがあれば手に取ろうと思っていたのだ。
「あ、あった」
「おもしろい？」
「うん」
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2023年9月2日 23時
