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佐久間さんは漫画の中のヒーローに憧れて、そしてそれを演じる事で自分を変えて
いつしか誰かのヒーローになった。
「…佐久間さんが演じてたのはどんな主人公だったんですか?」
「んー、色々あるけどね。一番は自分の存在で周りの人が笑顔になったり好きな事を全力でやってずっと笑ってる主人公だったかな。具体的な作品名も言えるけどー」
彼が憧れたヒーローのまんまではないかもしれないけど、今こうして漫画家として自分そのものがヒーローへと。
「語り出したら止まらないし、必死でAさんが止めることになるからやめとくね?」
佐久間さんはクスリと笑う。
「……分かってるじゃないですか」
「んふふ、つい熱くなっちゃうからさー」
「止めるの大変なんですから」
「いつもスイッチ入れるのはAさんだよ?」
そう言うと立ち上がっていくつかの原稿を持ってきた。確認お願いしまーす!と元気よく差し出した佐久間さんはいつもの調子だった。
「しいちゃん、勇気を出すの巻」
そう、キメ顔付きで。
「…どういうことですか?」
「都和と陽斗の気持ちだけじゃない。2人と過ごしてきた過去の自分、そして今の自分。分かっていたようで分かってなくて、分かろうとしてなかったこと。その全てに本当の意味で向き合っていく。その勇気を出すんだよ」
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"怖かった、ずっと"
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詩香のその、一言の心の声。
それに私はドクリと大きく心臓が波打った感覚がした。
その言葉の意味はまだ分からない。
そしてその先、待っている結末も分からないけど。
「…佐久間さん、このお話ってハッピーエンドの予定ですか?」
まだまだきっと連載は続いていくけれど。
「あったりまえじゃん」
結末なんて聞くのは野暮だけど。
「ラブストーリーはハッピーエンドに決まってんだよ」
じゃあ私も"演じて"みれば
ハッピーエンドを迎えて、笑えるのかな。って。
「最初にも言ったじゃん、覚えてない?」
「…いや、覚えてますよ。めちゃくちゃドヤ顔で言われましたから」
「にゃは、さすがAさん」
演じられるのだろうか。
自信はまだないけどさ。
「…詩香は強いですね」
私は詩香みたいな人じゃない。でも無理矢理にでも演じてみたら、強くなれるのだろうか。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年9月2日 23時