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「でも今漫画を描くことで、そんな過去の自分とか苦しかった時とかを全部抱きしめてあげられてる気がするの。俺みたいなどこか窮屈に生きている子にこの漫画が届いて少しでも助けになってたらあの時の俺の経験も全部報われる。
漫画の中の主人公とか、ヒーローみたいにずっとなりたくて、でもなれなかった。でも漫画を描くことで誰かのヒーローにはなれてるかもしれない。そう今思えてるから、心から漫画家になってよかったなって思ってる」
佐久間さんのルーツと私のルーツ。
それは実際似ているのかもしれないけれど…正直自分の記憶は曖昧だからはっきりとは言えなかった。
それに、佐久間さんはその過去を今の自分がしっかりと助けてあげられている。でも私は違う気がした。
ただ忘れてなかったことにして、でも思い出してしまってそれに苦しくなってしまったことが最近あったから。
「……そうですね、佐久間さんはきっとたくさんの人を助けてると思いますよ」
「えへへ、まぁそれはAさんもだけどね?一緒に作ってるんだから」
佐久間さんは変わった。
私も、佐久間さんみたいになれればいいのに。
私は、変われてない。
「…主人公?」
「え…?」
「俺みたいに、って」
ハッとしていつのまにか俯いていた顔を上げた。
「え…あ」
「ヒーローとか、主人公になりたい?」
「しゅじん、こう…?」
無意識で声に出してしまっていたのだろうか。佐久間さんのまるくて澄んだ瞳がこちらを向いている。
「……なれるよ、きっと」
「え…?」
「Aさん素敵な人だから」
綺麗な瞳だった。
「もちろんさ、漫画とかドラマとか…小説とか?都合いいようにはいかないけどさ。もし理想とする主人公があるなら演じてみればいいよ」
「演じる…?」
「うん。主人公そのものにはなれなくても、演じることはできると思う。そうすれば自然と理想の主人公像に近づけるかもしれないし、それが自分そのものになることだってあり得るよ」
"演じる"という言葉で思い出したのは御陰さんの事件での佐久間さんだった。確かに彼は主人公を"演じて"望む結果へと事を動かしていたかもしれない。
どんなことにも目を光らせる最強の探偵なのか、どんなに口を開かない容疑者にも事実を吐かせる敏腕刑事なのか、主人公を翻弄するイケメン男子なのか…
「俺はそうして、ヒーローになれた気がするからね」
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年9月2日 23時