近づくための ページ31
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「まじでどこ行ったと思ったらさー、洗濯機の中にいたわけ!もーほんとびっくりした」
佐久間さんに抱えられてるシャチはみょーんと身体を伸ばして降りたそうにしている。彼女を開放した佐久間さんはソファにどがっと座った。
「でもちゃっかり洗濯機の中にいるシャチ想像したら可愛いですけどね」
「あ、見る?」
見せてくれた写真にはなんの悪びれもなさそうに洗濯機の中から見上げるまんまるおめめ。帰ってきたら姿が見えないのはそりゃあ焦るだろうけどさすがにこれは可愛い。
「可愛い…」
「んね、ほんっとうちの子可愛い」
足元にすり寄ってきた本人を撫でれば気持ちよさそうに目を細める。ご主人の事びっくりさせたかったのかー?なんて可愛い子。
いつの間にか当たり前のようにぴったり身を寄せてきたツナも撫でて。毎回思うけどよくこんなに懐いてくれるものだと思う。だって、他人だよ?
「…いいですね、やっぱり」
「お、猫ちゃんお迎えしちゃう?」
「いやぁ…迎えても中々構ってあげられない気もするんで、責任持てないですよねぇ」
いいなぁと思う。こうやって懐いてくれれば無条件で側にいてくれて、求めてくれたり癒しをくれたりする存在がお家にいるなんて幸せじゃないか。色々な条件が揃うならば本気で考えてみたいけれど、やっぱり現実的ではない。
「まぁねぇ、一人暮らしだとね。俺はまだ家で仕事する人だからいいけど。在宅とかできないの?」
「部署によってはしてる人もいるみたいですけど…編集部はなんだかんだ出社する方が勝手がいいので。会社にいた方がこうやって打ち合わせにもすぐ来れますしね」
ツナがニャオンと鳴く。撫でてって言われている。
飼い主でも無いのにそのニュアンスまでも分かるようになっていた。
「Aさんって何で編集者さんになったの?」
仰せのままにとツナを撫でていると佐久間さんがそう問いかけてきた。その表情は優しくて、聞かせてよって言葉にはしてないのにそう聞こえた気がして。
「……何で、かぁ」
あまり深く考えたことがなかったそれについて考えてみる。するとこの間浮かんできた、本を読む自分とそれに話しかけてくる辰哉の記憶がまた頭をよぎって。
「……気がついたら出版社に入りたいなって漠然と思ってたので…あまりはっきりとしたきっかけは分からないんです。でも、思い返してみれば…」
また、過去の映像が鮮明になる。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年9月2日 23時