助けを ページ4
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出社して自分のフロアに入る直前。
深く深呼吸をして気合を入れてから扉を開けた。
おはようございますとすれ違う人たちに挨拶をしながら歩き、自分のデスクに荷物を置く。そして給湯室で自分のカップを手に取ってウォーターサーバーの水を入れる。
席につきパソコンを開いてまずはメールとスケジュールの確認。今日は午前中に事務作業を始めとした細々なものを終わらせてから午後に佐久間邸と向かう予定だ。
「佐倉さん」
「はい」
「これ明日の会議資料、目通しておいて」
「ありがとうございます」
呼びかけにもちゃんと対応して、作業の集中力も落とさなかった。先週の挙動のおかしさが嘘のように冷静でいられて、不思議と他人の目や声も気にならない。あんなにはっきり聞こえていた悪口も聞こえない。
その代わり。
辰哉と亮平の温かい手の感覚がずっと残っているような気がした。大丈夫、怖くないよ。そう伝えてくれているような気がする。
「打ち合わせ行ってきます」
お昼休憩の後に荷物をまとめて席を立つ時も全く視線は気にならず。向かいの編集者さんが行ってらっしゃーいと声をかけてくれたのが聞こえた。
“頑張れって言ってほしい”
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もうかなり行き慣れた佐久間さんのお部屋。玄関の前に立って2度目のインターホン押す前に、私は携帯を取り出した。
“Aなら大丈夫。頑張れ!”
“頑張れ。まぁ、もう十分頑張ってけどな?”
そう、会社を出る時に亮平と辰哉それぞれに送った言葉。
その返事を見て心に刻む。
『はいはーい、今行くねー』
機械越しの声が聞こえて携帯をしまう。程なくして開いたドアにはいつものピンクヘアーのお兄さん。
「いらっしゃい」
「お邪魔します、今日は嫁Tじゃないんですね?」
「んにゃ、ちょっとこの後出る用事あってねー」
いつもの女の子が大きく描かれたTシャツじゃなくて比較的シンプルな恰好の佐久間さん。そんな彼について行きいつものリビングにお邪魔すると、待ち構えていたかのようにツナとシャチが足元に。
「あら、どしたのふたりとも」
「Aさんのこと待ってたんだよねー?」
しゃがんで手を伸ばせば自らすりすりと身体や顔を押し付けてくる。客人にこんなに懐くネコちゃんがいるものかと。
「佐久間さん、これこの子たちに」
「えー!おやつじゃん!ありがと!お前らもありがとしなー?」
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年9月2日 23時