・ ページ19
・
『俺だって少女漫画とか読んでキュンキュンしたい日だってあるわ』
「本屋で気になったの買えばいいじゃん」
『どうせなら知り合いが作ってんの読みたいじゃん！』
今あんたがその少女漫画の登場人物みたいなことしてるんだよと心の中で呟いた。絶対言えないけど。
「…だから、私は出版のために必要な事をしてるだけでイラストもストーリーも作ってるのは作家さんでしかないから。私だろうが他の人だろうが変わらない、だから自分の好きなの選んで読みな」
いや、ストーリーにはかなり関与しているんだと思う。それにこれをそのまま他の人に言う事は絶対しない。編集者という仕事をバカにしてるとも捉えられる言い方だから。
ただわざとそう言ったのだ。諦めてほしいから。
『……それはさぁ、違うじゃん』
なのに、辰哉は少し声のトーンを抑えてそう言う。
『確かにAの作品とかそういう事じゃないのは俺でも分かるって。でも仕事って一緒にする人で変わるって言うじゃん。Aとじゃなきゃ仕事したくないって言われてるくらいなんでしょ？絶対Aがいい影響を与えてその漫画が出来上がってるわけじゃん、俺はそれを知ってるから読みたいなって思ったの』
優しく言い聞かせるように。
『自分が小さい頃から知ってる子がさ？頑張って頑張ってそれを世に送り出してるんだよ。嬉しいじゃん、それが形になってて手に取れるって。だから俺はそれを読んで、Aに凄かったよ、面白かったよって言いたいのよ』
また、その声に何かを奪われそうな感覚になる。
『頑張ってる子は応援したくなるじゃん、それと同じような感じよ』
だめだ、何か怖い。
『……おーい、聞いてる？』
このまま聞いてたら、何かが起こりそうだ。
『え、こんないい話してんのに寝る？笑』
「……ん、ねむ」
『おーいマジかよ』
やめよう。
「……たつやの声…眠くなるんだよ」
だからうまくもない演技でそう誤魔化して。
『……ふっ、じゃあ寝れない時はいつでもかけてきな？いくらでも聞かせてやるよ』
「だるい…」
『オォイ！』
携帯を持ったまま、顔のあたりから遠ざけた。
『え、マジで寝た？』
『もー…ほんっといつも急なんだからさー』
『ちゃんとベッドで寝てんのかなこの子』
『……おやすみ、A』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1584人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽぷら
| 作成日時：2023年9月2日 23時
