なんで ページ18
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『大丈夫？』
電話の向こうから聞こえた第一声はそれ。
ソファに沈んで聞いたそれは直接顔を合わせている時よりも柔らかく感じるのはなぜだろうか。
「うん、平気」
『ほんとに？』
「ほんとだよ、嘘つかない」
そう返した私の声に疑いを持つ要素はなかったのか「そっか」と一言だけ返し、それ以降何かを心配する様子は無かった辰哉。
また同じ時間にかかってきた電話。
「……ねぇ辰哉」
『ん？』
なんで毎週電話かけてくるの？
そう聞こうとして直前でやめた。
その一言は遠回しに拒否をしているように聞こえてしまう気がして、意外と繊細な彼を傷つけかねないのかなと。
「…面白い話、してよ」
そう誤魔化して、彼の言葉を待った。
行動が一致し過ぎている。
仕事中、ふと今の連載を最初から軽くおさらいした時どうも既視感を感じたり重なることが多くて。
その中でも辰哉が毎週かけてくる電話はあまりにも陽斗と同じ行動。元々私がネタとして提供したのがはじまりにしても、別に毎週同じ時間にかけてくるなんて佐久間さんが作った漫画の中のシナリオでしかないのに。
『んー、リクエストある？』
「え、なにそれ」
『友達の話、バスケ部の奴らの話…それか俺のかっけぇ話とかー？』
電話の向こうの陽斗の優しい顔が浮かんでしょうがない。
詩香を想っている時にしか見せない、あの愛おしそうな表情が。
「……辰哉の話」
そんなわけない。私が困る。
ただ、電話の向こうの辰哉が今どんな顔をしているのか。
なぜかそれだけは気になってしまう。
『えー、俺のこと聞きたいの？』
「だめなの？」
『いや？俺のこと知りたいんだなーと思ってさ』
「なに、気持ち悪いよ？」
『うるせぇよ』
はは、ってちょっといつもより低い笑い声が自分の深いところに響く。これを聴き続けたら…よく分からないけど、何かに酔ってしまいそうだ。
『じゃあ俺の気になってる事ね』
「気になってる？」
『うん、お前の漫画』
ギク。
漫画でしか聞かないその効果音が心に響いた。
酔いかけた心は完全に冷めた。
『読みたいんだけどー』
「…まず私が担当してるってだけで私の漫画じゃありません。そして死んでも教えません」
『なぁんでよ、男が少女漫画呼んじゃいけねぇってか』
「違うけどさー…」
それはまったくもって違うのだけど。だってその担当作家さんが少女漫画を読み漁ってる例を目の当たりにしてるくらいなのだから。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2023年9月2日 23時
