陰キャとさくまの水曜日 (ページ11)

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ダンスは好き。それに嘘はない。

人見知りで陰キャな自分が、唯一自分を表現できる術だった。踊ってる時だけはなぜか注目されるのも平気だったし、自然と顔が前に向いた。いつもとは正反対の自分だった。

普段は講評で教授に褒められて周りに見られたりすると思わず俯いてしまうし、今の一対一での会話も結構ギリギリだ。

「……好きだけど」

でも、踊っていない隠キャモードの私でも
それだけは否定したくなかった。

「じゃあ一回本当にサークル見てみたら？入るかどうかは別として」

「入らないから見る必要ない」

「佐久間すごいよー？俺ら割と経験ある方だけど中でも佐久間のダンスはすごい」

「見たら今度は本当に強制的に入れられそうなので嫌です」

「逆に何でそんな入りたくない？笑」

何でって。
あなたたちみたいな陽キャに絡まれたくないからだよと心の中で悪態をついた。

「俺だって建築だしバイトもしてるし。Aちゃんには及ばないかもだけどそれなりに成績いいし。でも週2のサークルくらいならいけるよ。何、そんなに社畜？笑」

それもあるけどさ。

「……社畜で何が悪い」

「いや？お金貯めるのはいいことよ。」

バカにされた。
課題中に下手に入るよりは入れるときに入ったほうが効率いい、だから模型だってちゃんとしたの作れるんだ。追い出されるギリギリまで学科棟にいるんだから。

段々と彼に対してもムカついてくる。
煽ってくるタイプの陽キャだ。

「ちなみに何やってるの？」

「居酒屋」

「へぇ、大変そう」

「それなりに」

「でも、それだけじゃないでしょ？」

彼はニッコリと笑って頬杖をついた。
また何かを見透かすような目線が私に向く。

「…サークルとかいう雰囲気が苦手」

その目線に、素直に言葉が出てしまった。

「……ふーん」

ほら、きっと陽キャさんたちにはこの感覚が分からないんでしょうね。受け答えに困ってるでしょ。だからほっといてよと。

少し大袈裟にため息をついた。

「じゃあ方法を変えるのみだなぁ」

「は？」

「ふふ、佐久間に言っとく。じゃあね」

何を変えるのか何を言っとくのか分からないけど、とりあえず去ってくれたので安堵する。入る気ないよって？それなら安心だ。是非とも言って頂きたい。

今日は金曜日。
花金だ、ってサラリーマンやらOLさんたちがこぞって飲みにくる週末。

また変なのに絡まれないうちにと荷物をまとめてバイトに向かった。