陰キャとさくまの水曜日 (ページ32)

今日:47 hit、昨日:183 hit、合計:502,272 hit

・ページ32

・

「自信のほどは？」

「…無いよ」

「えー？諦めてるの？本気でいくよって言ったのに」

「本気だよ」

2人を連れて自分のデスクに向かう途中、最後の最後まで煽ってくる阿部くん。思ったよりも私たちがバチバチなのを感じたのかまぁまぁって宥め始めた佐久間くんは多分ちょっとビビっている。

「これ」

「わ！すげぇ！何？お店かなんか？ビル？」

興味津々、と顔に書いてあるような表情で私の模型を覗き込んだのは佐久間くんだ。阿部くんは黙って見ている。

ほら、意外とって感じでしょ？
だから自信ないって言ったのよ。

「…コンセプトは？」

「テーマ覚えてる？」

「“誰かが輝く建物”」

「これは私しか輝けない建物」

そう言うと阿部くんは顔を上げて私をじっと見つめた。

私が作ったのは円柱型の建物で、ドーナツみたいに真ん中が空いていて下が広場みたいになっている作りの低めのビルだった。

その真ん中には丸いステージがあって、円形の建物の内側の通路はギャラリーのようになっている。つまり手すりから下の広場が見下ろせるような。イメージは通路が外に面しているアウトレットモールみたいな感じ。

「誰かが輝くってテーマを聞いた時正直何も思い浮かばなかった。ありきたりなのしか浮かばなくて、今回は無理だって半ば諦めてた。けどね、気づいたんだよね。その“誰か”は別に他人じゃなくてもいいのかって、ある人の言葉を聞いてさ」

そう、ある人の言葉で。

「課題で作ってるだけだから今までそんなこと思ってなかったんだけど、自分の模型って"自分だけの特別な建物"なんだよね。自分しか作れない、自分の頭の中を投影してるもの」

佐久間くんが模型から顔を上げた。私は目の前の模型しか見てないけど、その目線が私に向いたのも分かった。

悔しいけどさ、私は関わりたくない陽キャの人にインスピレーションを得てしまったんだよな。

「これ、ステージのつもりなんだけど。私こんな所で踊りたいなって思ったの。下の広場からも見えるけど、この建物の通路から360度このステージを見れるようになってる。広場から見たステージは見上げる形だけど、通路からは見下ろす感じになる。この、上から下までお客さんがいる感じがコンサートホールみたいでしょ」

イメージはそんな感じ。だから土台まで作ったり四角い建物の模型を作ったりしてたけど、全部やり直して作りなおしたのだ。