陰キャとさくまの水曜日 (ページ21)

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「よかった…いない」

水曜日。また体育館に行ってそっと入り口を覗いた。

もうそろそろバイトもセーブして授業後は実習棟にこもりっきりの生活になるだろうから一回思いっきり踊りたかったのだ。

鏡の前で携帯から音楽を流して。高校時代の振りだったりなんとなくの思い付きで動いてみたり。モードに入ったのか久々に汗だくになるまで踊っていた。これはバイト前に家帰って着替えないとなぁと思いながらも身体は止まらない。

「……やっぱすげぇや。Aちゃんのダンス」

「え！？」

しばらくしてそろそろ帰るかなって音楽を止めた時。
また背後からあの声が。

「今日はこないと思ったのに…」

「だって声かけたら踊るのやめちゃうでしょ？見たかったんだもん」

胡坐をかいて床に座っていた佐久間くん。
なぜかこの前体育館に来た時に踊っていた様子を思い出した。凄かったな…本気で踊ったらどうなるんだろうともう1人の自分が思う。

「踊るの好きだよね、Aちゃんって」

「……じゃなかったらわざわざ踊りに来てない」

「うん、それもそうだけど。動きから伝わる。凄いダンス好きなんだなって。もっと踊りたいなって思わないの？こんな水曜日のちょっとの時間じゃ足りないでしょ？」

足りないよ、だけどあんたのせいで最近はもっと足りてなかったよ。唯一の踊れる時間なのに。

そんな心の声は留めて何も言わずに荷物をまとめる。

「サークル入ればいいのにー、いっぱい踊れるよ？初心者さんもいっぱいいるけど俺らと一緒に踊ればそれなりにレベル高いから楽しいと思うよ？」

あの高校の2人がいる時点で確かにそれなりに踊れる人たちなんだろうなて思ったけど考えただけで怖い。どう見ても陽キャ集団だもん。

「……バイトだから。じゃあね」

「俺もさ！最初は怖かったの」

胡坐の彼をを通り過ぎて体育館を出ようとした時、聞こえたいつもより大きな声に思わず立ち止まった。振り返るといつもみたいにニコニコしてる彼。

「俺ねー今こんなんだけど昔すんごい引っ込み思案で暗い子だったんだよね。無理やりダンススクールに入れられてさ、先生もなんかチャラい感じだし、周りの子もグイグイくるし。当時めっちゃ怖かった。早く辞めたいとか思ってたんだよ」

何を言い出すのかと思ったら急な昔話。
内容に反してニコニコしてる顔。

バイト行く前に家に寄りたいのに、私は何故か立ち止まったまま話を聞いていた。