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「はーいその彼氏はこちらにおりますでぇ。お客さんこの店繁盛してましてねぇ、忙しいんで彼女連れ戻させてもらいますー、ご注文ありましたらまたボタンでどうぞー」
作り笑いを何とか維持しながら、どう切り抜けようか頭をフル回転させているとグイっと腕をつかまれて席から身を離された。
急だったから少しバランスを崩してよろけてしまう。
わぁすまん！力加減できんかった！って関西弁のあの声が聞こえた。
「Aちゃんだいじょぶか？随分長い事捕まってたなぁ」
「はぁ…ありがとう、しつこかった…」
「今日いつもより客多いから気いつけや」
助けてくれた康二くんはその客のテーブルから少し離れた場所まで行くと苦笑いしながらそう言った。
本当に助かった、今度は安堵のため息が出る。
「勝手に彼氏面してごめんな」
「いや、ああでも言わないと帰るまでしつこく迫られそうだし…助かったよ」
「あんなのにAちゃん渡せんわ。笑」
確かにあんなのの恋人になったら周りの目も痛そうだ。
絶対にならないけど。
「そうだねぇ、友達もいなくなりそ」
「…ほなもうちょいがんばろかー、こんだけ繁盛したら今日は賄い豪華やで」
" 7番テーブル誰か片づけー！"
指示が飛ぶ、もう中々遅い時間だ。でもまだあちこちから騒がしい声が聞こえてきて、多分閉店ギリギリまでフルスロットルだろうなぁと今度は疲れのため息が出る。
「うん、じゃなかったら店長ぶっとばす」
「その前にこっちがぶっ飛ばされんようにせんと」
「え、機嫌悪い？」
「忙しいとイライラするやろ、ミスしたら豪華どころか賄いすら無しにされそーや」
チラッと厨房の店長を見ると手を動かしながらため息をついたのが見えた。疲れてるな。
「賄いのために頑張ってるようなもんなのに」
「あ、こっち見てるで。やばいやばい」
ニッと笑って私の背中を軽く押した康二くん。
こうやって疲れてても他人を気遣う彼はよくできた人だ。
その日は見事に閉店時間まで客が途絶えなく、閉め作業を終えて賄いにありつくころにはもうド深夜。
くたくたで逆にお腹がすかなかったので忙しすぎるのも損だなと思ったり。私、本当に社畜だなって苦笑いしてしまった。
目黒くんに今日のあいつらみたいなしつこい客どうやってあしらってるのって聞いてみた。しかしうーんと考えたと思えばしばらくして口を開き。
「気合い」
嘘でしょ。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2021年5月20日 2時
