捻くれおまわりさん ページ44
・
「えっ、渡辺さん！？」
「よー、ちゃんとやってる？」
目の前の後輩は目を丸くしている。
ふらっとやってきたここは俺が数ヶ月前までおまわりさんをしていた交番だ。
「お、お久しぶりです」
「ん、俺の代わり誰か入ってきた？」
「あー…新人が」
「そ」
大困惑。
それもそうだ、急にいなくなった上司がなんの連絡もなしにここに現れて偉そうに座っているのだから。
絶対に異動のことは外に漏らすなと言われている以上本当のことを話すわけにはいかないのだけど。
「まぁ俺は楽しくやってるから心配すんな」
「…そうっすか」
「言っとくけどクビとかじゃねぇよ、俺優秀だったじゃん」
「そっ、それはもちろん分かってますけど！」
嘘だ。
きっと何かやらかしたとでも思ってたんだろう。
「では…今は何をされて？」
「それは秘密。でもここにいた時より稼ぎはいいよ、やりがいもあるし」
そうとだけ言って俺はひらひらと手を振りながら交番を後にする。
今後輩が着ている、初めて袖を通した時はちょっとだけかっこいいじゃんだなんて浮かれた制服も、私服でのびのびといられる今を経験してしまうと全く魅力的に感じなかった。
「あ、別にアブナイ事とかしてねーからな」
「そんな！疑ってませんよ！」
嘘だ、疑ってた。
あたたかい陽気の中を散歩する。かつてパトロールしていたこの町は何も変わっていなかった。
「ほらほらばあちゃん、危ないよ」
いつもふらふら歩いている近所のばあちゃんも。
「あらぁ、翔太くんじゃない」
「覚えてんの？」
「やぁねぇ、わたしゃそこまで歳とってないよ」
御年85歳。元気だ。
「最近見ないと思ってたんだよ、元気してんのかい？」
「元気元気。何ヶ月か前にここ離れたのよ」
「そうかい、そりゃよかった」
あの時のように安全な場所まで腕を取って支える。後輩たちはこのばあちゃんの世話をちゃんとできてるのだろうか。
「いつでも戻ってきんしゃい」
「はは、そうだね」
「この町は翔太くんのおかげで平和やったからねぇ」
「大丈夫だって、今だって平和だろ？後輩たちが受け継いでっから」
多分、相変わらずこのばあちゃんが元気ってことはかろうじて世話はできてるのだろう。
「ほいじゃあね」
「おぉ、ちゃんと食べて体に気をつけるんだよ」
「ばあちゃんもね」
ふらふらと、でもしっかりとした足取りで車が通らない道を歩いていく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2279人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽぷら(プロフ) - ゆうさん» 結末を知ってから読み返すとまた違った発見があるかも知れませんね。楽しんでいただけていますように！コメントありがとうございました！ (3月3日 21時) (
レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - ゆうさん» ゆう様。少しここに顔を出さない期間が続いてまして…コメントに気づくのが遅くなってすみません💦お読みいただきありがとうございました。この作品は翔太くんの存在が結構大事だったりするので、担当様に喜んでいただけて嬉しいです☺︎ (3月3日 21時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 続き、、、読んでしまったので、また最初からゆっくり読み直そうかと思います。素敵な作品、ありがとうございます。 (1月30日 0時) (レス) id: ea951581be (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 初めまして。ふらふらと彷徨い、こちらに辿り着き夢中で読んでしまいました。メンバーだけという作品もですが、設定に引き込まれました。各々の能力もにあってるし、渡辺担の私はかっこいいしょっぴーが見れて嬉しかったです。先が知りたくてめっちゃ早く (1月30日 0時) (レス) @page50 id: ea951581be (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - kototoさん» kototo様。お読みいただきありがとうございました！同じ阿部担の方に楽しんで頂けて嬉しいですー！☺️読み返したりと、引き続き楽しんで頂けたら嬉しいです！ありがとうございました！ (2023年4月16日 18時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽぷら
| 作成日時：2023年3月29日 22時
