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そうサクマが言ったのは私に聞こえていない。されるがままの片腕と真っ白な病院の天井で急に恐怖が湧いてきて。
「A、俺のこと見て」
その真っ白に吸い込まれそうな気がしたとき、視界に再び入ってきた兄の顔。
「大丈夫、血圧計ってるだけ」
「……な、に?」
「すぐ終わるから」
頭を撫でられた感覚がした。落ち着かせるようにポンポンと撫で続けるその手は絶対に成長しているはずなのになぜか昔のまだ小さいであろう兄の手を思い出させるような。
私が拾われた日、あの時の。
「問題ないですね。先ほどの検査でも大丈夫そうだったので入院はせずにご帰宅いただいて構わないと思います。もう少しここ休んでいただいてもいいですし、お任せしますね」
その後も看護師さんが何かしらの処置をしている間ずっと私の視界に立ち、そして頭を撫で続けた兄。看護師さんのその言葉を聞いて少しホッとした私に微笑んで頷いた。
「どこも悪くないって、ちょっと疲れただけ」
確かに何だか疲れているかもしれない。兄の言葉にやっと力が抜けたような気がして一度深呼吸をした。
「………かえりたい」
「うん、帰ろうな」
当たり前だけど病院にいると病人な気がしてしまう。実際そうなのかもしれないけど寝るなら家がいい。
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「サクマ、おんぶする」
康二に支えられて上半身を起こした私。まだ身体はなんだかフラフラするしぼーっとしていて、起き上がったことによりそれが顕著に感じられた。
私の手をずっと握っていたサクマがそう言って勢いよく立ち上がる。
「俺がするよ」
でも兄がそれを制してベッド横にしゃがみ込んだ。確かに自力じゃ歩けなそうだしどうにか運んでもらうしかないんだけど別にどっちでもいい。
「……照、俺車入り口まで持ってくるよ」
「うん、頼む」
「サクマ、先行って待ってよ。ほら、ドアあけてあげようよ」
康二から鍵を受け取った阿部ちゃんがサクマを連れて病室を出る。そして私は康二に体を支えられながら兄の背中に体重をかけた。
「っしょ、なんか昔より軽く感じるわ」
「照兄がデカなったんやろ」
「Aだってデカくなってるじゃん」
「比べもんにならんて、笑」
あまり暗い空気にしないようにか、兄と康二は冗談まじりに掛け合いながら病院の廊下を歩く。久しぶりに乗った兄の背中は私も小さい頃より大きく感じたし、目線が今までよりずっと高かった。
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ぽぷら(プロフ) - kokoaさん» kokoa様。コメントありがとうございます(^^)お返し遅れてすみません…楽しんでいただけてこちらも嬉しいです。移行先の4章でも佳境に入っていますので、引き続きよろしくお願いします! (2023年1月8日 19時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
kokoa(プロフ) - 何様なんだって言われそうですけど、構成も言葉選びも表現力も全部大好きです。ここ数日すごく忙しかったのですが、その合間を縫ってでも読み進めたいほど素敵な作品で、後半は涙が止まりませんでした。この後も楽しみにしています! (2023年1月1日 22時) (レス) id: 5cf1c692fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2022年12月17日 22時