憎い存在 ページ46
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家を出て歩き始めた途端に当たり前のように私の手を取るサクマはルンルンで隣を歩く。
相変わらず天気は良くて、家の周りの工場やその一帯のエリアを抜けて街に出ると同じように散歩なのかお出かけなのかのんびりと歩いている人が多い印象だった。
「いい天気が過ぎるな」
ぼそっと呟いた私にいつもより溶けたような声で「いいてんきぃ」と返したサクマ。機械人形も天気の変化で気分は変わるみたいだ。
どこに行く訳でもなくのんびりと歩いて辿り着いたのはいつかサクマとシャボン玉をした大きい広場。例に洩れずこんなにもいい天気だから、そこでのびのびと遊ぶ子供たちやその様子を微笑ましく眺める大人、一緒に日向ぼっこをしている老夫婦など沢山の人がいた。
「いいねぇ」
雰囲気が良すぎて素敵だなぁと珍しい事を思っていたらサクマもこんな声を漏らす。本当に、人間みたいだ。
「ん?」
ぼーっとその広場全体を眺めていると腕を引かれた。サクマは私を軽く引っ張りながら歩き出し、迷うことなくある場所に足を進めた。
「すわるー」
そこはあの時二人で座ったベンチ。
「あけて?」
そしてポケットから何かを取り出して私に見せる。それはいつかここで、同じ場所でやったシャボン玉の残りだった。
「え、持ってきてたの?」
「しゃぼんだま!」
確か適当な自室の引き出しにしまっておいたはず。このやろう、勝手に開けやがったなと思いつつも別に大したものなんかは入ってないので素直に受け取って袋を開けた。
液に浸して、ふーっと吹く。
あの時と同じ、もしくは太陽の光であの時よりもさらにキラキラ光るシャボン玉が浮かび上がる。
「わぁ」
初めて見たわけではないだろうにまた目を輝かせてそれを見つめるサクマ。自分の少し上でパンっとはじけたそれで楽しそうに笑いながらまた目をしぱしぱと動かす。
「サクマ、再チャレンジする?」
そんな彼に道具を差し出すと一瞬考える素振りを見せながらも受け取った。そしてそれをじーっと見つめて少し難しい顔をしながらもそーっとそれを口元に。
「優しくね」
私のそんな助言の数秒後、サクマが咥える先からふわっとシャボン玉が浮かび上がる。
「!…できた!サクマできた!」
「できるんかーい…笑」
やっぱり吹く力の加減が出来なくて…なんてパターンをちょっと期待しちゃったりもしたけれど、物凄くうれしそうにする本人を見て自然と私も笑っていた。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2022年12月2日 0時