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「えー、覚えてない」
「ひたすらに頬張って苦しそうにしてたお前の背中こーやって叩いてたの誰だと思ってんだよ」
兄は私の背中をバシバシと叩く。ちょっと、幼い子にやるには勢いが強すぎやしませんか。
「痛い、暴力反対」
「俺のおかげでお前は窒息死しないで今まで生きてこれてんの」
「今度は全身打撲とかで死んじゃうよ」
兄が持ってきた牛乳をグイっと飲む。パサパサしていた口内が潤って、喉にすーっと落ちていった。
「何か食べたいもんある？」
「食べたいもの？何、今食べたばっかりじゃん」
「夕飯、久しぶりに外食でもするかと思って」
立ち上がった兄は空になった自分のコップを洗い始めた。水道の音と共にそんなことを言われてびっくりする。
「え、珍しい」
「ありがたいことに康二とお前の飯がうまいからな」
「仕事は？」
「この間の飛行テストでちょっと落ち着いたんだよ。だから午前中ちょっと作業したら終わりにしようと思ってる。康二も今日来ないし」
私も飲み干したコップを洗おうとキッチンに。自分のをラックにかけた兄はそれを見て私に手を差し出した。
「あぁ、どうも」
「考えといて、そんで夕方くらいまでには帰ってきな」
私のコップも洗ってくれた兄は自分のそれと並べてラックにかける。そして丁寧に手を拭いた後に、すれ違いざまに私の頭をぽんぽんと撫でると外に出ていった。
「食べたいものねぇ」
兄と外食か、いつ振りだろう。
「……よくやるよなぁ、あれ」
自分の頭をポンポンしてみる。
「手でっかいな、あの人」
自分のちっちゃい手とそれよりも大きいサクマの手。それをさらに上回る大きな手。
「お兄ちゃん面……て、お兄ちゃんだもんな」
今までとは違ってすっと受け入れられたその手。ぼーっと兄が並べた私たちのコップを眺めながらなぜかそんなことを思った。
「……何食べよ」
頭の中で料理を思い浮かべながらリビングに戻る。サクマは理解できないであろうテレビをじーっと見ていた。画面の中で何かが動いていること自体が気になるのだろうか。
「っしょ…」
また彼の隣に座ると空いていた隙間を詰めてピトっとくっついてきたサクマ。
「そうかぁ、サクマは食べられないんだもんなぁ」
きっと私の外出には無条件で着いてくるから。お店で黙って座ってるだけになってしまうのが何だか申し訳ない。
「ん？」
「……サクマはいつもいい子だもんね」
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
