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「実際そうなのかもしれないんだけどね？その、実際康二がこの家によく来るようになってからは一番話してると思うし。大人になってからは尚更お兄ちゃん以外のみんなとはそんなにしょっちゅう顔合わせることも無くなったし……」
物理的にも心理的にも康二との距離が一番近いのは事実だ。それを康二だって分かってるはずで、じゃなかったらギクシャクしていた阿部ちゃんや兄を追い出して自分ひとりで看病をするわけがない。
「……ただ、その…そういう事じゃないんだよね。これは間違いなく私の勝手なあれなんだけど…」
距離は近くとも、私は“取られた”感覚が拭えなかった。それだけだった。
「康二が一生懸命に飛行船と向き合って、楽しそうであればあるほど“機械”に康二が取られていくような感覚だった。飛行船は何も悪くない、康二だって何も悪くない。ただ…あの出来事のせいで機械人形だけじゃなくて“機械そのもの”、“機械で覆いつくされたこの世界全部”が嫌になっちゃった。そんな世界で、立派に機械を生み出す道に進んだ康二がどんどん離れてくような気がしたんだよね」
さっき康二が豆腐を入れた鍋がぐつぐつと煮えあがる。その音が妙に頭に響いて、私はまた満月を見た。
「今まで飛行船に乗らなかったのはそれの裏返しで、子供みたいな反抗だよ」
私は康二の前のコンロに手を伸ばして火を止めた。
「私だって忘れたいのにね、頭に浮かんできちゃうの。なんでだろうね」
このコンロの火みたいに、この厄介な気持ちがパッと消えちゃえばいいのに。
「豆腐崩れちゃうよ？」
何も言わない康二。私はまな板と牛肉を自分の前に引き戻した。包丁を手に取ってほっとかれてしまっていた牛肉を切り始める。
それを最後まで切って包丁を置いた時、やっと彼は口を開く。
「なぁ」
その満月は少し水分を纏っていたように見えた。
「……どうすれば助けてあげれるん？」
訴えかけるように見つめる満月が
「俺、夢諦めたくないねん」
ずっと満ちていた満月が
「……分かんない、私も」
私の一言で、欠けてしまった。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
