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康二は足元に置きっぱなしの買い物袋を持った。
中身を覗いては何かに気付いたようにふっと笑って
「一緒に作ろか、今日は一人分多いんやろ？」
「……涼太くん、久しぶりでしょ？」
「さっき急に現れてびっくりしたわ、元気そうでよかったな」
穏やかな顔でキッチンに入っていった。
「康二」
「ん？」
「康二は副菜ね、汁物も」
「えー？俺のオカン直伝の味付け食べたくないん？」
「私が作りたかったんだもん」
「俺の舌は厳しいで？」
「文句言うなら食べなくていいでーす」
康二が袋から材料たちを取り出している横でフライパンやら調味料やらを準備する。最初のうちは私が作っていたのをよく康二が手伝いに来てくれた。今じゃ私より率先して岩本家の夕飯を作ってくれるから立場が逆転したなぁとぼんやりと考えた。
「あ、お米」
「昨日の分冷凍しとるよ、足りひんかもやけど」
「あー、じゃあ炊くの少しでいいか」
冷凍庫を覗くとラップにくるまれたいくつかの冷凍ご飯が綺麗に置かれている。そこまでしてくれるなんてもはやこの家に嫁いだお嫁さんレベルだ。
「昨日の夕飯は全部食べたで」
「あ…そうなの？」
「A帰ってこーへんやろなって、じゃあ全部食べてしまえって」
朝にでも食べる、なんて言って夜に家を飛び出して天文台に行った私。そのことをすっかり忘れていた。結局ふっかのメロンパンがこのお腹には入って。
「やっぱな、この家のご飯はAが作るんが一番いいんよ」
「なにそれ」
「照兄、俺の作ったんよりうまそうに食べる」
「そんなわけ、康二のだって美味しいよ」
ピーマンを取り出して刻み始めた私。多分汁物を作ってくれようとしてお湯を沸かしている康二。昔は兄たちに囲まれて隣同士でいたことが多かった私達。今じゃそんな兄たちにご飯を作るようになったなんて。
「A」
「んー？」
ピーマンが全部切れた。次は玉ねぎかなって置いてあった丸いそれを取る。
「笑わんとってな？」
「えー何が？」
「何真面目なこと言うとるんって、確かにキャラじゃないけど堪えてや」
玉ねぎにあてがっていた包丁を一旦置いた。康二を見るとさっき冷蔵庫から取り出した豆腐を手に取って、私の置いた包丁を奪うとそのままパックのラベルにスッと通す。
「大真面目やから」
ラベルをはがして手に豆腐を落とした康二。そのまま鍋の上で丁寧に豆腐を切っていった。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
