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私が今の家に拾われる少し前。西の方から引っ越してきたという康二は慣れない場所で不安だった自分を構ってくれた兄たちにそれはそれは懐いていた。今はともかく、幼い頃は一つにしても彼らとの歳の差がはっきりしていたように思う。
それは私もそうかもしれないけど、最初の頃はよく塞ぎ込んで一人になっていた私とは違って康二はずっと誰かしらにひっついていた。彼らもそのイメージがあるはずで、だからこそまた兄のような面をしてしまうんだろう。
「サクマずっと康二すごいねーって言ってるよ〜。俺も乗りたいな、あいつの飛行船」
はい、大丈夫だね。とサクマの背中を閉じてぽんっと叩いた阿部ちゃん。サクマはそれを受けて満足そうに立ち上がると「Aー」とニコニコでまたこちらに寄ってきた。
「どしたの」
「サクマ元気だよー」
そして自然な流れでまた私にハグをする。
「……阿部ちゃん、なんともなかった？」
「ん？特におかしい所はなかったよ」
「ほんとに？」
「何でそんな、笑」
疑う私に笑う機械技師さん。プロが言うならその通りなんだろうけど、じゃあこのサクマの様子は何なんだろうか。
「…なんて言うか、サクマ情緒大丈夫？」
「え、情緒？笑」
「何か…こんな」
私にくっついてぽわぽわしてるし、劇的な変化があったわけじゃないけど出会った時と雰囲気が違う。変に甘いというか、いや甘えてくるというか？
また彼を見上げてみると目を細めて笑ってから急に腕に力を込められる。
「うぐっ」
苦しい苦しい。
「ふふ、強いて言うならAが好きすぎて甘えん坊になったかな？残念ながら俺は直せないなぁ」
そんな阿部ちゃんの一言に今までなら呆れてただろうけど、最近感じているあの事のせいで複雑な気持ちになる。サクマの“自我”って何なんだろうか、サクマは何で今こうやって私に抱き着いているのだろうか。
抱きしめられながらもどこからか視線を感じそちらに目を向けた。その目線は頬杖をついてこちらを見ていた涼太くんだった。
その表情は私の今の気持ちを分かっているようで、私と目が合うと少し眉を下げながらも微笑んで
そしてゆっくりと頷いた。
「サクマ、ちょっと離れよ」
ぽんぽんと背中を叩きながら言うとちゃんとそれを聞いて腕を解いたサクマ。
「サクマ元気」
「うん」
「だいじょーぶ！」
「……うん」
本当に、どこも悪くないらしい。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
